lll1 さんの感想・評価
3.6
物語 : 4.0
作画 : 2.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ヤンデレという言葉を嫌う
観なおしなくなったので、再観賞。続編の小説が出るらしい。後半のみ本編描写のネタバレを含みますが、人によっては前半も十分にネタバレに相当する恐れがあります。ネタバレを本当に避けたい方は、注意して下さい。
ところどころ気になる描写はありつつも、やはり良い作品だった。前半は、"引きこもり"を題材にコメデイを取り入れ、エンターテインメントに仕上げているが、後半から色濃くなる多様な問題。
実に先見的な作品だった。本作で扱われた問題は、引きこもり、マルチ商法、メンタルヘルス、オンラインゲーム、依存、若者を縛る環境など様々あるが、これらのほとんどが、こと現代において一つも解決していないどころか、ほぼ全てが悪化、もしくは進行している。
引きこもりとその高齢化、及びそれに伴う餓死や孤独死。
SNSによって、上にあげた問題のほとんどが加速している。本作は、この現代社会において大きな問題となっていることを取り上げているが、それがメインではないので、問題提起に留まっているようにも思えてしまう。しかし、現代人には十分に伝わる筈だ。それに、回答もないのだから。
アムウェイは、SNSを利用しての勧誘等を禁止しているが、実際のところ利用しているに決まっているだろう。オンラインゲームに至ってはご覧の通りだ。スマホゲーやら配信者やら、投げ銭やら依存症など様々だ。悪いという訳ではないが、視野が狭くなっている人間がもしかしたら増えたかもしれない。
もっとも大きなものはメンタルヘルスだと思う。激しい消費と選択が繰り返される昨今、ほとんどの人間が疲弊している。SNSなどによって次々と流行が変わり、情報はどんどん操作されている。取り上げるべき問題が矮小化し、どうでもよい芸能人の不倫などが巷を騒がす。コロナ渦における、ヨーロッパへ渡った難民のニュースを見た事があるだろうか。NHKのBSでは海外のニュースが放送されているので、是非見てみるといい。もちろん、それだけで知った気になってはいけないが、自分の世界に無いものが当然のように報道されている。これらは日本のメディアは取り上げない。
木村花さんのニュースはとても辛かった。リアリティ番組に出演した人の自殺者は実はかなり多い。しかし、人気があるので、それでもなお消費は続く。へどがでる。人はいつだってどれだけでも残酷になれる。戦争、差別が過去のものだと思っている人がどれだけいることだろう。"そんな時代があった"のではない。"そんな人がいる"のだ。そして、現代でもそれは変わらない。"場所"が変わったに過ぎないかもしれない。
話を本編に。ネタバレを含みます。
{netabare}
本作で扱われたものと、消費だが、中原岬についてである。私はあまり詳しくないが、メンヘラだのヤンデレだのとメンタルヘルスの不調が消費に向かっていると思う。私には、彼女がSOSを出しているようにしか思えないが、"見たい部分のみを見る人"にとっては、それも消費に変わってしまう。
実は本作の前半はあまり好きではない。後半の描写を加味すれば、前半も問題提起、または皮肉ともとれるが、コメディ色を含むエンタメにもっていったしまったがために、人によってはそれが問題意識されないのではと思えるからだ。
「引きこもりってやつ。笑えるだろ」
「笑えないわよ。何が原因で起きるか分からないんだから」
主人公の佐藤が自身を保つために、問題を矮小化しようと試みるが、委員長は引きこもりを笑えるようなものだとは捉えておらず、佐藤は気持ちを楽にすることは出来ない。問題を問題として意識することが大変重要であるが、当の本人はその問題を問題として意識しないことで楽になりたいと願う。ゆえに、問題が隠れてしまう。難しい、とても難しい。何が正解かなど分からない。問題を取り上げ、重要視することが多くの人間にとって必要である。しかし、それによって誰かをさらに追い詰めてしまうかもしれない。
本作を観賞し、私がとても感じたことは、下記の通りである。
「本作の人物全てがSOSを出している。もしかしたらほとんどの人間が実はそうかもしれない。しかし、それがSOSとして捉えられず、消費に向かい問題が矮小化する。それによって、過酷な状況や死にまで陥ってしまう人が発生する。しかし、これらの現代社会の問題にどう対処すればよいのか、分からないことが多すぎる」
全ての人に優しくありたい。誰かが少しでも気を楽に出来るなら。
{/netabare}