しゅりー さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
生命の境界に立つ物語
空の境界の第7章。
この後に「終章/空の境界」が控えていますが、
劇場版の展開としては最終話にあたります。
7章は再び発生した連続殺人事件のなかで、
式の殺人行為を尊ぶ思考の根本になるエピソードや、
2章では語られなかった識の最期が描かれます。
そうして連続殺人事件の犯人、白純里緒との最後の戦いが行われます。
式の感情が追い詰められているからか、
もしくは7章の物語全体に巣食う闇の表現なのか、
7章の映像は非常に暗いシーンが多いです。
作画レベルは相変わらず高いのですが、あまりに暗すぎて
DVDでは何が映っているのか良く見えないシーンが多々あります。
映ってしまうのも困るシーンがやはり多いのですが…。
映像として少し惜しい部分を感じますが、
最も空の境界の世界に没入して見れた章です。
式と幹也のストーリーは非常に考えさせられるモノです。
式の罪と幹也の愛が非常に重く、深く感じられました。
幸福な日常を謳歌する自分にはここまでの感情は持てません。
劇場版スタッフに万感の想いで拍手を送りたいと思います。
【シリーズ全体として】
とにかく近年視聴した劇場版アニメのなかでもトップクラスの作画レベルです。
自分は専門的な知識が乏しいため、あまり難しく語れませんが、
空の境界以上に作画と映像センスが優れているモノには最近出会えていない気がします。
ただ、本当に毎章血生臭い表現、シーンが多いため、10代の方にはオススメしません。
本作の世界観である90年代後半を懐かしく思い出せるくらいの年齢の方に観ていただきたいですね。
また、奈須きのこさんの創造された世界は本当に奥深く、
空の境界に出会えたおかげで「Fate/stay night」にも出会えました。
秋に「Fate/Zero」も控えてますし、まだまだ奈須さんの世界観から抜け出せそうにありませんw
最後に梶浦由記さんの音楽は本当に空の境界の世界観に合っていました。
空の境界以前の「舞-HiME」や以後の「魔法少女まどか☆マギカ」などを観ても
悲しく、切なく、それでも澄んだ感情を表現するのにこれほど素晴らしい音楽は稀だと思います。
他にも素晴らしい部分はたくさんあるのでしょうが、文章でこれ以上お伝えできる自信がありません。
興味のある方は是非、観てください。
以下はネタバレ100%の駄文になります。
興味のない方は「戻る」でお願いします。
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白純里緒は式の殺人に対する思考の対極にすらいない、非常に醜悪な人物に映りました。
殺人の罪を背負う強さもなく、自らの殺戮行為の責任を他の誰かに求め、
一人で狂うことが怖くて自分と同様の狂人の仲間を求める。
その姿には現代社会の歪みが集約されたような不気味さを感じました。
本編中盤での橙子さんの独白はまさにそうした社会を指摘したモノではないでしょうか?
対して、式の尊んだモノは何でもない日常。
自分を殺す罪を背負って生き、何気ない日常の中で大切な人の笑顔を隣で見ていること。
それが識が憧れて、式が求めたモノなのだと思います。
白純里緒との決着により、自分を殺す罪を背負えなくなった式。
式は大切なモノを全て失ったように語りますが、
それでも幹也は式を一生許(はな)さないと言います。
式の罪も背負って式を孤独にしない、式を殺す罪を背負うと誓います。
式と幹也の誓いは現実に生きていては到底理解出来ないモノかもしれませんが、
人と一緒に生き、人と一緒に死んでいくことへの純粋な想いがこもっているように思えました。