退会済のユーザー さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
タイトルなし
ピクサー作品はこれが初めてになるのですが、約90分間夢中になって観てしまった。
制作に5年もの歳月をかけたというのも、これを観れば納得。
【トイストーリー】は今の子どもとかつての子どもがもっていた夢をアニメに起こした作品だ。一方で本作は、子どもの不安を題材に用いている点が特徴。
「クローゼットや扉の向こうに何かが居るんじゃないか……?」という不安の【何か】から一つの世界を生み出すという発想。着眼点共々感心するしかない。
さて、本作の凄いところは沢山あるのですが、やはり一番はキャラクターですよね。
コメディという舞台をしっかり活かしたキャラの掛け合いはとても楽しい。
マイクの早口とサリーの大らかさが窺える相槌は耳に心地良く、ランドールの嫌味な性格もどこか憎めない。(サリーやマイクのノリに振り回されてるからだろうけど)
コメディという舞台が、キャラの魅力を引き立ててるんだよな。
あとブー。この子が可愛過ぎたね。「吹き替えの人、どれだけ幼児というものを心得てるんだ……!?」って感動したんだけど、調べてみてビックリ。
なんと声をあてたのはスタッフの娘。しかも二歳半。
当然収録現場で撮れるはずもなく、彼女に普段通りに行動してもらい、その後を追って声を逐一録音したらしい。
あの可愛さにも納得。「演じよう」と思って生み出されたのではない天然モノなんだものなー。
モンスターの世界が子どもの悲鳴で成り立っている本作の背一定にまず惹かれ、脅かす側だったモンスターが、子どもが現れたことで脅かさられる側に回るドタバタコメディに終始笑い、親友との喧嘩が挟まれ、別れに悲しんで涙し、最後に「良かったぁ……」と今度は嬉し涙。
いいじゃん、これこそエンターテイメントって感じの手堅い作り。基本は大事。
大人にも子どもにも楽しんでもらいたいからこその基本。その中でちゃんと場面に山場を作ってあるし。コメディとまっすぐなストーリーは相性が良い。
この作品で重要なのはアイデア。モンスターの世界というものをガッツリ描いてくれさえすればそれでいいんだ。(ストーリーに三年を費やしたことを非難しているように思われるかもしれないが、そうじゃない)
本作で何故ここまでストーリーの構築に戸惑ったかというと、おそらく、それだけアイデアが沢山生まれたからに他ならないと思う。スタッフの中で生まれてくるアイデアと、多くの人に楽しんでもらうストーリー、そしてそのアイデアをストーリーに溶け込ませる。この工程に手間取ったんだろう。ドアを収納してる空間が現れた時の感動ったら、言葉にし難いものがあるよ。
物語は、ひょんなことから人間の子どもを連れてきてしまったサリーが、マイクと協力して子どもを送り返そうとするドタバタコメディだ。
個人的に良かったと思える点・シーンを挙げていくと、まず最初に浮かんでくるのが【モンスターにとって子どもは恐怖の対象である】こと。
もちろん実際に子どもに汚染物質が含まれているなんてことはなく、これはあくまでもモンスター側の妄想でしかない。ここで面白いのが、子どもが扉の向こうに有りもしない不安を抱いているのと同様の不安をモンスター側も抱えているという点だ。
まるで人間のような価値観を持ち(生ごみの匂いのするスプレーを使用するような感性のことを指しているのではなく)、人間のような反応をし、これまた人間のような社会を築いている。
そしてサリーは真面目な会社員で会社のエース。マイクは仕事よりも社内恋愛に精を出す陽気な性格。これまた妙に人間くさい。社内にライバルがいたり上司がいたり(そんな社長は業績不振に頭を悩ませる)、同僚がいて、おまけに仕事が終わるとデートに向かう。
この作品は大人と子ども、両方をターゲットにした作品だ。つまりこの場合、モンスターは大人の視点ということになる。
感情が読みにくく、分かりにくくなってきてしまった子どもへの接し方が分からない大人の姿をアニメという媒体をめいっぱい活かして誇張しているんじゃないかなとか考えてみたり。
現代こういう描写を多く描くことで、大人はいつの間にか、サリーやマイクの立場になって物語を追っていく。
そして子どもは、ブーの立場になって魅力的なモンスターを眺めるのだ。
昔、僕がこの作品を観た時はサリーやマイクといったキャラに感じる楽しさ=本作の面白さと思っていた。
でも最近になって観てみると、サリーやマイクだけでなく、社長やランドールといったキャラに奇妙な親近感を抱き、彼らの立場になって物語を追っていたように思う。
業績不振に悩む社長の方針で一方的に解雇されるなんて、世知辛い世の中よなぁ……。
そうすると、ブーのなんて可愛いことだろう。まるで本当の娘のように思えてくる。子どもを持ったことなくても、それぐらいの愛着が湧く。とにかく可愛いんだよ。
それゆえに、中盤にてブーに拒絶されたサリーのショックは痛いほど分かる。この時のセリフが印象的なんだよなぁ。
ここで、当初はブーに好かれたくないと思っていたサリーが、今は嫌われたくないと思っていることがハッキリと分かる。
で、ここからなんだ。サリーが明確に会社の決定に反発するのが。それまで会社に従順だったサラリーマンの、一世一代の反抗である。
なんだかんだでついてくるマイクも、ダチ想いの良き相棒。
事件が解決した時の別れもまた、印象深い。この段階ですっかりサリーの立場になっていた僕は、切なさに悲しいやら寂しいやらでいっぱいだった……。
この場面でロズの放った「報告書は提出しなくていい」ってのが思いのほかえげつなかったなぁ。やっぱり認めてはもらえないってことだもんね……。
でも、ブーとの出会いがモンスター界に希望を生んだ。モンスターが求めるのは悲鳴から笑い声にとって代わり、使えないと評された新しいモンスターも活躍の場に恵まれて、めでたしめだたしじゃないか。
そう、ブーという子どもの存在が認められなかったのは、少し前のお話。これからは、会ってもいいんだ。だからこその、あのラスト。あれはなぁ……うん。もう観れば分かる。言うことがない。