STONE さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
ほんと、もったいない
原作は未読。
魔王と勇者が手を組んだ異色ファンタジーをうたい文句にしていたが、異色という部分では、
むしろ中世的世界観の異世界に、中世以後の政治、経済、科学、技術を導入したら?、という
一種の実験的要素にありそう。
中世的世界のハイ・ファンタジーに関してはルーツを辿っていくときりがないが、欧米で
一つのジャンルとして定着したのは60年代末期のトールキンの「指輪物語」(出版自体はもっと
古い)を始めとする作品群辺りから。
これは同じく、この時代に流行ったヒッピームーヴメントなどとも連動しており、共に機械化
文明、合理主義、資本主義などに対する反発から中世的世界にロマンを求めたものだが、
そういった一種の現実逃避ジャンルに敢えて現代的なものを持ち込むという試みが面白い。
中世的世界観のファンタジーに、現代的要素を融合させる作品自体は、シリアス、コメディを
問わず、他にも多くあるが、世界全体の変貌を描いていこうというスケールの大きさでは
他作品より抜きん出ているように思える。
魔王が持ち込む先進性に関して、思想や経済に関しては聡明だからという説明でもなんとか
なりそうだが、オーバーテクノロジーに関しては「予知能力がある」とか、「実は未来から
きた」などのSF的設定があったりするのだろうか?。まあ特にそういった設定がなくても
ストーリー展開に支障がないからいいけど。
この作品の設定自体は、個人的にはかなり興味をそそられ、魔王の描こうとしている世界と、
その過程を見てみたいと思ったのだが・・・。
ストーリーの展開自体は悪くない。
魔王の意志が勇者を動かし、この二人の行動により回りの人間や魔族も次第に変わっていく。
魔王の元、一枚岩で動くというのではなく、それぞれが自分の意志の元に動いていく展開は、
魔王と勇者を主人公にしたヒロイック・ファンタジーではなく、異世界を舞台にした歴史群像
劇といった感じで、世界の変貌を描くのに相応しい印象。
ただ、とにかく構成が悪すぎる。
原作付きのアニメの場合、原作の内容を丸々描くのが難しいのは重々承知しているが、この
作品に関しては取捨選択がウーンといった印象。
様々な事象が事後談と語られており、その中には映像化したら勇者のアクションシーンに相当
しそうな部分が多々。結果として頭脳より体を使うことがメインの勇者の影が薄くなって
しまったような。
全体としては、なんかダイジェストを見ているような気にさせられる。それも下手な編集の
ダイジェストといった感じで、必要な部分が削られているから話が判りづらく、逆に本筋とは
あまり関係のないラヴコメ的部分を残している。
ラヴコメ要素自体は否定しないが、この作品のコンセプトからしてもっと残す部分がある
だろうという感じ。
後半の山場とも言えるメイド姉の「人間宣言」などは確かに良かったが、やはり積み重ねと
いうのは大事なもので、せっかくの良さも半減。
そして、中途半端なところでエンド。
世界観、ストーリー展開、キャストの演技など、傑作になりうるポテンシャルがあった
だろうと思われる作品だっただけに本当に残念。なんとも勿体ないなと思わせる作品だった。
一種の思考実験的作品として捉えるなら、各キャラクターは実験の駒とも言えるわけで、そう
いった意味ではキャラが固有名詞としての名前を持たず、役職、身分だけなのも判らなくも
ないが、娯楽作品として感情移入して観る分にはやはりそれぞれにちゃんとした名前があった
方が良かったかなあ。