こたろう さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
この残酷で美味しい世界
漫画原作。
作者は『鋼の錬金術師』の荒川弘先生です。
農家の跡取りが多く通う農業高校に、普通のサラリーマン家庭から入学した主人公。
今まで知り得なかった畜産や農業の現実にカルチャーショックを受けながら、色々と学んで、自身や将来の事を考えいく物語です。
我々が普段当たり前のように口にしている食肉や卵、乳加工製品や野菜がどうやって作られているのか、家畜とは経済動物とは何なのかをシビアに扱っています。
題材が身近なだけに、万人にとっつきやすく非常に興味をソソる内容。
それに実力と実績のある人気作家の原作とくれば、面白くないわけがない。
実際、かなり面白くかったです。
農業・畜産のウンチクを扱いますので、それだけでも見所はタップリです。
ですが、その点での面白さだけでなく、本作の魅力はキャラクターと世界観。
一般人の主人公は我々と同じ目線で物事をみるので、感情移入の度合いが非常に高いです。
普通に進路や家庭のことに悩み、コンプレックスや嫉妬心、その反面の自尊心もある等身大のスペック。もちろん失敗だってします。
それでいて、真摯で真っ直ぐなところに惹かれて、友人や大人達の信望を集める資質も備えています。
我々の代弁者であり理想でもある彼の魅力が鍵であり、その成長と心情が物語を動かしているので、とにかくこの世界観に浸って視聴することができます。
深刻な事件もなく基本的には平和。
単なる農業高校のイチ学生が経験できうる日常です。
一緒にバカをやれる仲間がいて、色々と助言をくれる人がいる。
厳しい現実感がありながら、えらく居心地のいい場所がそこにはあります。
荒川漫画らしい、ちょっとコミカルで個性的で魅力溢れるサブキャラに囲まれて、爽やかに過ごす青春の途中。
感情移入してみるには、このうえない作品です。
また「食」というか食材を扱っているので、じつに美味しそうな映像も魅力。
ベタベタではありますが、大自然の中で採れる新鮮な野菜、美味しくするために手をかけた肉や卵を口にしたときのリアクションが素敵です。
じつに嬉しそうに、美味しそうに食べ物を頬張るキャラたち。
根幹にあるテーマはえらくシビアで、
食べるために殺す。
儲けるために殺す。
効率のために殺す。
動物への愛情と屠殺という矛盾したエゴを常に考えさせられます。
人間の”業”に関わることを直球に訴えてくるだけに、キレイ事ではない
「美味しく命を頂く」
という表現には妥協がない。
誰もが理屈では解っていても向き合いたくない現実。
それを、バンバン見せ付けてくれるので刺激にも事欠きません。
身近で、現実味があって、テーマも明快で、それでも娯楽性に富んでいる。
陳腐な表現ですが、「わかりやすくて面白い」。
原作のポテンシャル、アニメとして質、ともに非常に優れた秀作だとおもいます。
多くの人に是非みていただきたい作品です。