遥か彼方 さんの感想・評価
4.8
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
この作品が何故「氷菓」なのか?それが私、一番気になります!
見終わった!さあ、レビューを書こう・・・・・・
あれ?書けない?
楽しめた、面白かった、期待以上に良かった!
「ここまでの視聴過程で思ったあれだけの事をそんな安易な感想で終わらせるのか私は!」
と今もう一人の自分が熱血モードに入って「叫んでいる」為
悪足掻きは止めて、この作品で思った事を全て晒しだそうと決めて今ここ。
と言いつつ今この瞬間でも書いては消し、書いては消しを繰り返している・・・大したレビューも書けないのにいっちょ前に拘りだけは人一倍強いからタチが悪い。
なら書ける所から少しずつ・・・何だか悩み相談を聞いて貰っている時の気持ちと似ている。
このレビューは三段階に分けて進行して行く事にする。
◆1は表面的や一般的なメジャーな感想
◆2はこれは是非言いたいと言う個人的嗜好箇所
◆3は自分の経験談も踏まえてこの作品が「氷菓」で有る意味の考察
いつもより少しは纏まりのあるものに仕上がる事を少し「期待」してみる。
◆1 とにかくよく出来ている。
私は日常ものはあまり、と言うか殆ど手を付けないタイプなのだが、これは気持ち的には★オール5に匹敵する程、構成、作画、音楽、物語性、キャラ全てにおいて表面上マイナス点は見当たらない。
では何故★5じゃないのか?これだけ褒めちぎっているが私の中では「傑作」ではない。「傑作」は既にあってそれは唯一無二のものだから。何作もあるものは「傑作」とは言わない。ただの意固地なポリシーだ。奉太郎の省エネ主義みたいなものかも知れない。
だが、この作品は「とても素敵な作品です」と胸を張って大声で「叫」べる!
「人の死なないミステリーを題材にした日常もの」
まずこの設定だけでも興味は引かれる。アニメでも意外と殺人などを描く事なく謎解きをメインにしている作品は珍しい。日常ものは敬遠しがちな私もそこに大きく引かれ、視聴を決めるに至った。
日常から外れず人も殺さず、どれだけ魅力的なミステリーを見せられるのか?ここは非常に興味深かった。
そして、それは見事に描かれていた。
「氷菓」「愚者のエンドロール」「クドリャフカの順番」のエピソード以外は単品だが、その単品ですらしっかり意外性を持たせている。勿論前者の三つに関しては後で述べまくる予定だ(嫌な予感しかしない人はこの辺で回れ㊨推奨w)
この言葉はあまり好ましくないだろうが、所謂「捨て回(手抜き)」が無い。どの謎も些細な事なのに全く解けない。真実を知って「ああ、そうか!こう言う場合も有り、だよな」と白旗を挙げる一方である。そこが悔しくも凄く面白い!
そしてどの回にもキャラらしさや意外な一面、キャラの魅力を知る上で大切な言動、行動が丁寧に描かれている。
作画に関してはその方面に明るくないので一般的な事しか言えないが、人物が顔芸をする事なく、背景も非常に丁寧だ。最終回の桜を含む祭りから最後までのシーンは本当に圧巻としか言えない。その美しさだけで感動で涙が出そうになるくらい日本の美を描いていると感じた。
音楽に関して、個人的に一番好きなのはホームズと怪盗をモチーフにしたED2。とてもあの四人らしさが出ている。だがOP1も好きと感じなくても一度も飛ばした覚えがない・・・つまり好きって事さ?
OP2も考察しがいが有りそうな興味深いものだし、ED1はヒロイン二人の色気と女性らしさが余すところなく描かれている。まあ、どの主題歌もそれなりに良かったと言う事だと思って頂ければ良い。
BGMも良い仕事をしている。
特にミステリーが入って来るシーンなどは、不安を感じさせるBGMでミステリアス感が倍増されている。所々に合ったBGM、音楽も申し分無い。
そしてゲスト声優が吃驚するほど豪華絢爛!声優アテだけでも充分に楽しめる。
次キャラについて
えるの成分は100%萌えで出来ています。
と言うくらい天然で可愛く一人欲しい!と思わずにいられない千反田える筆頭にメイン四人が全て魅力的である。
と、えるの話が出た所で
◆2に入る。
色も長さも向いている方向も全く違う四つの線は磁石の様に引き寄せられ完璧なスクウェアになる!
メインキャラ
★折木奉太郎
愛しい省エネバカ。どうやらクセは前髪を触る事みたいだ。
私が彼を初めてサイトでチェックした時思ったのは
「おお、いかにも何を考えてるのか解らなさそうな読めないキャラだなあ」だった。
だがこの奉太郎、意外と分かり易いのである。
何だかんだでえるの魅力に振り回され、省エネ主義が最終的に見事に崩壊させられる(下記参照)
可愛い女子に対して健康な高校生男子並の欲求もしっかり持ち合わせている(まあ、それはいつの間にかえる限定になっていた様だが)
私が一番奉太郎で興味深かったのは実は寝起きシーン。
一瞬「誰だ?」と思わずにいられない程酷い寝癖がいつも付いている。だがそれは教室に入る頃にはしっかり整えられているのだ。つまり省エネ主義を語り面倒事は御免と言うオーラーを放ちながらも、身だしなみにはそれなりに気を使うキャラなのだと。里志が「奉太郎は灰色だよね」と彼を色に例えたが、灰色としか自分を思えないキャラが身だしなみなど気になるものだろうか?
今ならもっと言えば「あんな可愛い子に付きまとわれて『期待』される高校生活が灰色な訳がない!」となる訳で。
つまり周りからは過度な期待をかけられ「特別視」されながら、本人は自分が特別である事を知らない、里志に「特別になりたいって思った事あるの?」と質問され、初めて「特別」になれるのかと自問自答し始める。
それまで本人は素で自分が「特別」だと言う可能性すら感じた事が無い。ある意味無知は罪。実はこいつ罪深い。
★千反田える
この作品の看板娘とも、萌えの結晶とも言える「私、気になります!」と言う言葉と共に好奇心を最大の天然凶器とした優しく可愛らしいご令嬢。
えるに関してはもう視聴した人が魅力を存分に堪能しているだろうから、今更敢えて述べなくても良さそうだ。それ程このえる嬢は皆に癒しを、萌えを提供しているのだから。
でも私は最終回を観るまで本当のえるを理解出来ていなかった様だ。
彼女が千反田家に生まれてここで自分のすべき事を既に見付けている。村に貢献したいと言う将来の展望を揺るぐ事無く語れる。それはまだ自分と言うものが解っていない奉太郎には、どれ程彼女がしっかりした女性として映っただろう。
正直今まで見せなかったその凛とした姿に驚き、今までの彼女の言動などを振り返ってみた。
優しさの中に、好奇心の中に将来の展望を見渡せているような強さをきっと知らず知らずの内に受け取っていたのだろう。驚きはしたものの彼女ならそう言う思考に至れる考えが出来るだろう、と自然と受け取り納得が出来、益々彼女が魅力的に感じられる様になった。
今度から彼女の説明をする時は「芯は強い」を付け加えようと思う。
★伊原摩耶花
普段はツンデレ?(と言うか男子には誰にでも強気)作中で唯一恋愛の喜びを表現する、そしてその時の彼女は誰よりも可愛い。一般人の代表かと思えば彼女も意外と奥が深い。
「私がふくちゃんを好きって知っててそんな態度取るんだから云々」
一話の彼女の初登場シーン、私はまだ「ふくちゃん」が里志を指す事を覚えていなかった。
と言うか、よくよく考えてみたらさらりと流していたけど凄い台詞、まさに公衆面前での告白台詞なのだった。
よく聞いてないとスルーしてしまうくらい周りの反応やその直後の里志の台詞も特に(有ったかすら)覚えていない程である。一瞬耳を疑った事は言うまでもない。
そして私の半信半疑は暫く続いた。摩耶花があまりにも男子二人に対して同じ様に接しているからだ。
「あれ?確か彼女里志が好きだった、筈?」
「ふくちゃん」が里志だと一致した後でも表面的にそう言う気持ちを全く見せない彼女の恋心を疑った。
少し脱線するが、私が彼女に初めて好感が持てたのは
「折木、変」
と言う褒め言葉?だった。
二人は小学生からの付き合いらしい。そんな彼女にはあの奉太郎が事件を解決出来る事が「変」なのだ。
素直に褒められないツンデレと言えばそうなのかも知れないが、多分本当に「変」だと感じていたんだろう。この一言がとても摩耶花と言う人物像を表している様に思えた(そう言えば最初だけだったな、もう奉太郎がそう言う事出来るのが「変」じゃなくなったのかな?)
作中何度か里志を意識している場面が出て来くると流石に私もあのあっさり告白が空耳では無かったと思える様になる。
そしてここで一つの大きな疑問が生まれた。
★福部里志
実は奉太郎より彼が一番理解しにくいキャラだったのだ。
そして自分を「データーベース」に例え数々の口実にしてきた不器用な彼が奉太郎同様好きになった。
一話冒頭辺りで「奉太郎は灰色だよね」と省エネモットーで無駄な事はいっさい楽しもうとしない彼をそう例えた里志。また「お前はショッキングピンクだよな」と奉太郎に言われた里志。
何色かは例えるのが難しいが、取り敢えず両方間違っているのは何となく最初から気付いていた。
いつも笑顔を絶やさずえる並に好奇心旺盛に見える彼。今をめい一杯楽しもうとしている彼だけを見たならショッキングピンクと言えなくもない。
だが、里志は摩耶花に告白されながら答える素振りを「バレンタイン」まで見せる事が無かった。
奉太郎の様にえるの女性的な魅力にあからさまに反応したりもしていない。
里志?こいつは何を考えてる?
原作では確実に摩耶花を恋愛対象として見ている文章が幾つも出てくるので、ちゃんと両想いなんだろうが。
本編ではあまりにもそう言うのがなさ過ぎて「避けてる?」と感じずにはいられない事も多かった。
「今を精一杯楽しみたい!」からだろうか?
里志なら有り得る。そして摩耶花もそれに気付いているからこそ告白以上のアクションは起こさない。
「摩耶花」と呼び捨てにしているのがきっと彼に取って特別な意味があるのだろうと思う。
そして私の疑問「何故里志は摩耶花に答えないのか?」は「バレンタイン」の回で何となく伝わる様に描かれた。
きっと摩耶花に電話した里志は、一番彼らしい断り方をしたのだと思う。でもそこに自分の気持ちを摩耶花にだけ解る形で伝える事もした筈だ。
自分でも解ってるだろうけど、摩耶花を傷付けたり手放したくないと思っているのは里志の方だと思えるから。
一つ心から良かったと思えるのは、この作品が無駄な甘い恋愛を入れて来なかった事。
男女四人いれば勿論そう言うの前提で観てしまいがちだが、視聴したての頃「あからさまな恋愛とかになってきたら萎えるかも」と危惧していた。
それは最後の方に少しだけ、でもはっきりした形で魅せられた、それが焦れったくもありこの作品らしさでもあり、見事な距離感だと思えた。
正直メインが四人でどこまで面白いものが作れるのだろう、と思っていた。だがこの四人のキャラが絶妙に互いを引き立て素晴らしい作品にしてくれた。
ダントツ人気なのはえると嫌味のない好感が持てそうな主人公奉太郎だと思うが、里志や摩耶花がいなければここまで魅力を感じられただろうか?
私はこれ程までに誰が欠けてもこの氷菓の素晴らしさを表現出来ない、と思ったのは初めてでこの四人の相乗効果は見事だと思っている。
そう言う意味でもキャラの★5は揺るがない作品だ。
◆3この作品が何故「氷菓」なのか?
「氷菓」
この二文字からどんなイメージを持つのだろう。
まずは一度で覚えやすく、イメージとしては水色を連想させた。書体も美しく筆で流した様な印象的なものだ。
古典部の文集「氷菓」の意味は謎と共に三話で解る。思っていた以上にその真相は穏やかな日常もののイメージを、一気に崩壊させてしまう程の辛辣なものだった。
「氷菓{netabare}I scream(私は叫ぶ){/netabare}」
そこには決して笑えない、何年経ってもやり切れないジョークが隠されていた。
私が感じていた平穏な日常ものとは程遠い、ここで「氷菓」のイメージを一辺させる必要が出て来た。
三話を視聴するまでは叔父の件が最終回で解決するのだと思い込んでいて、冷や水を一気に浴びせられた割りにはあっさりした「カンヤ祭」事件だった。
ここでこんな大物を(所謂三話でクライマックス)出してしまって後どうするんだろう?
と言う疑問が湧いた。同時に一番の謎を解決してしまったと思ったので、今後の「期待」が正直一度薄れてしまった。
だが視聴を進めていく内に「この作品が『氷菓』である意味は絶対有る筈!」と「私、気になります」精神でそれを探し始めた。
そして自分なりに見付けた答えをここで聞いて欲しいと思った。きっと「氷菓」と「期待」はセットになっている。
「愚者のエンドロール」
これに、どれだけの「氷菓」が含まれていただろうか。
あの奉太郎が本気で怒りを露わにした。
いつも笑顔の里志が奉太郎のミスを見抜き明らかに暗い影を落とした。
摩耶花の困惑混じりの指摘で奉太郎はまさかの自分のミスに気付かされた。
そして、えるまでも「それは違う」と控え目ながらもはっきり奉太郎に伝えた。
このエピソードで里志が聞く
「奉太郎は特別になりたいのかい?」と。
里志は自分がどうやっても一定以上の特別にはなれないと自分を既に分析している。彼に聞かれた事により奉太郎は初めて「自分が特別になれる可能性があるかも知れない事」を知り、その皆の「期待」に答えようと本気で謎解きに挑んだに違いない。
入須先輩にも「あなたは特別」と言われた事が引き金かも知れないが・・・。
里志は類い希なる推理力を持ちながらミスをした彼をどう思ったのだろう。
憧れながら、羨ましく思いながら、少し嫉妬していた彼のミスを静かな怒りと言う形で受け止めるしかなかったのだろう。
里志の声には出せない「氷菓」が聞こえて来た。
そして自分を「特別」だと言ってくれた先輩に利用された奉太郎の「氷菓」は彼女を言及し、怒りをぶつける事で表に現れた。
省エネ主義を貫いているつもりの奉太郎もどこか「特別」になりたかったのかも知れない、と思わせる。
結果的に奉太郎を騙す形になってしまった先輩の中にも「謝罪」と言う「氷菓」があったかも知れない。
そしてえるが奉太郎に言った言葉「台本から叫びが聞こえてくる」と。
これは想像でしかないが、まゆこは入須にチャットで感謝しながらも本当は自分が最後まで担当していたかった、と心で少しだけ叫んでいたのかも知れない。
そして「クドリャフカの順番」
このエピソードこそが「期待」と「氷菓」が入り混じった最高傑作だと思う。
摩耶花の漫研での三日間、あの作品が見当たらなくてどれだけ「氷菓」していたか。
同じく先輩はあの作品を「名作」だと言い切る後輩に何て「氷菓」していたのだろうか?
最後に十文字はすぐ傍でまるであの「名作」など存在しなかったかのように振る舞う彼に対してどれ程懸命に、その届かぬ後ろ姿に「氷菓」し続けていたのだろう。
私事で申し訳無いが、似たような事をちょっと前経験した。
その子は高卒と言う経歴に酷くコンプレックスを持ちながら、一時期は官僚目指して懸命に勉強をしているらしかった。
その子はセンスも良くどこに言っても憧憬の対象となる様な
私に取っても憧れであり、目標であり、ネットの中でだけでも付き合えている事が嬉しかった。
だが一つだけ私だからこそ譲れないものが有った。それの為に彼女を傷付け私から連絡を絶った。
経験はあるのにどうしても未経験の彼女を超えられない。
そして経験があるが故にそんな彼女を褒めずにはいられない。しかし彼女は自分への賛辞を素直に受け取れない。
もし彼女が私の賛辞を素直に受け取ってくれる人なら、私は少しの嫉妬とそれを超える憧憬で彼女とまだ付き合えただろう。
無理だと解ってはいても私もどこかで「特別」になりたい一人なのだと改めて気付かされた。
まあ他にも直接的な理由は有れど「クドリャフカ」に拘わったキャラ達の「氷菓」が嫌な程解った。
そして全編通じて里志と言う屈折したキャラもやっと理解出来た気がした。
と暗い話はここまでで(と言うかここまで読んで下さる神様の様な方は果たしていらっしゃるのでしょうか・・・)
「バレンタイン」の時チョコを割った里志の「氷菓」は相当のものだったと思う。
だが、この作品は最後に素敵な「氷菓」で見事に締めくくってくれた。
結局奉太郎の渾身の省エネ脱却&桜色に染まった美しい「氷菓」は風に流されてしまったが。
それで良かったのだと思う。
あの二人はゆっくり恋を知ればいい。
後の二人は、そのまま今は心でしっかり繋がっていて欲しい。
どれだけ長くなったのか自分でも解りませんが、これがこの作品への評価であり、感謝の「氷菓」です。
ここまで読んで下さった方、本当に有難うございました!