「ブラックジャック OVA版(OVA)」

総合得点
75.1
感想・評価
107
棚に入れた
660
ランキング
842
★★★★★ 4.1 (107)
物語
4.2
作画
4.1
声優
4.2
音楽
3.7
キャラ
4.2

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ネタバレ

くし さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

ブラック・ジャックはやはりカッコいい

ブラック・ジャックは思った
「人は人の命を助ける事が出来ないと本能的に知っている。
人が出来るのは、その死を悼み、一時涙を流す事ぐらいと私は知っている。
だからこそ私は、生かす事への努力をしたという証を残す為にこんな事をしているのかも知れない。」


ブラック・ジャックOVA版、このシリーズは私がこれまで観てきたブラック・ジャック(以下BJ)の漫画、アニメとは印象が少し違う。劇画風になり大人向けに演出されている。BJ本人は非常に格好良く描かれていて、漢らしい体格、ニヒルで冷静な素振りなどの見た目から、原作にあった迷いや焦った時の立ち振る舞い、歓喜を露に見せる表情、ピノコに対する感情表現、どれもシリアスで外に見えるような感情の起伏を押さえて演出されている。あまりにも格好良いの一言に尽きる。
また、手術シーンの描写は原作以上にリアルに描写されている。メスをすーと入れた時の切れ方、出術箇所の生々しい描写、勢い良く吹き出る血しぶき等実際に治療場面はこうなんだという必然的描写に臨場感が漂う。
ピノコの変わりようには少し違和感もあるが全体の雰囲気に合わせたらこうなるのが妥当なのかも知れない。

医学博士であり漫画家の手塚治虫作品の故に病気や怪我に真実性もあるが、物語をより面白くするために手塚治虫の得意とする怪奇じみた要素がふんだんに盛り込まれている。また、医療という堅実な世界でありながら、かなり風刺も効いていて、色々考えさせられるところも魅力的だ。私はそれがとても好きだ。
手塚治虫の奇抜な発想と憎い風刺にワクワクし、病気や怪我に起因する思い掛けない人間ドラマのリアリティがこの物語を夢中にさせる。
また、手塚治虫作品はブレの無いストーリーの陰に他意は明らかに存在している。それを理解して感動したり、心を癒したり、悲しい余韻を残したりする。


言わずと知れたBJは一匹狼で悪名高い無免許医だが、腕は超一流天才外科医、そして報酬は法外な額を請求。
だが、気まぐれか、人情に弱いのか、タダ同然で治療することもある。

OVA版は12話あるそうなのだが、このOVA版は10話(カルテ_1〜10)構成になっている。
10話のうち8話は原作を元にしたオリジナルストーリーで、2話はこのOVA完全オリジナルとなる。

以下部分的だが簡単なオープニング説明、ややネタバレがあるので注意してください。

カルテ_1 「流氷、キマイラの男」
「島特有の原因不明の病にかかったせいで家族を殺され、命からがら逃げ延びた男が60年後に再発して島に戻ってきた。BJを雇ったのはその男自身なのだがその訳とは…」
勝手な憶測とともに物語は進行する、しかしそれは決して当たらない。手塚漫画の素晴しいところは展開が予想できない事にある。そして終盤を迎えても、他に私が見付けられなかった他意があったのでないか、と疑問のまま終わり考えさせられるところが感慨深い。「男は戻ってきた理由は本当にそうなのか…」私は信じない。他意は明らかに存在しているはずだ。

カルテ_2 「葬列遊戯」
偶然通りかかった街で出会った元気で笑顔が似合う4人組の少女、その一人を怪我から助けた。数ヶ月経ったある日、再びその助けた少女に偶然再開した。少女はBJに再開出来る事を信じて待ち続けていた。「お願い助けて」少女は必死にBJに助けを求めた。その時には仲の良かった4人組の姿はなかった…。その裏には陰の組織が絡んでいた。

手塚治虫は時に社会問題を題材にシナリオを描く事が得意だ。老人問題、公害、陰の組織や戦争、軍隊、それらに因果する治療から発展する人間模様。やはりそれは承知の上なのだが、ストーリーは複雑でやはり話の展開が見えないから面白い。

カルテ_5 「サンメリーダの鴞(ふくろう)」
奇妙な夢に悩まされていた若き軍人は突然発作とともに背中から大量に出血するが、すぐに自ら傷口が消えるという現象にBJは遭遇した。その軍人の背中には皮膚移植の跡があった…。
カルテ_8 「緑の想い」
BJに依頼された少年の体から沢山の木の芽が生えていたのだ。村に生える1本の大木と少年とに秘密の関係が…
カルテ_9 「人面瘡」
「どうか私を助けてください」BJが目にした物は腹にある大きなデキモノである「人面瘡」であった。その人面瘡はなんと!自ら喋るのだった…。

私が大好きな要因がこの手塚治虫の得意とする怪奇じみた要素だ。現実にはあり得ない大幅に逸脱した現象が面白くてしょうがない。だからアニメなのだ。これがなければただのドラマで過ぎないのだが、この悪ふざけのような展開に恐怖でなく手塚治虫の空想する不思議な世界を共有し堪能できる。

カルテ_10 「しずむ女」
公害病「三ケ月病」」調査のため三ケ月湾に訪れたBJは漁が好きな少女に出会う。その少女「月子」はとても可愛い純粋無垢な魅力的少女で、漁で生計を立ているのだがやはり公害病に冒されていた…

この10話、私が一番大好きな物語だが、人魚伝説を掛けてストーリーが作られている。この作品はこれまでのBJと少し趣がことなり、哀愁を帯びた話であり人魚伝説のごとく涙を誘う物語となっている。私がBJ全ストーリーで随一涙をみせた作品です。そして、BJという男がどれほど優しい男かをあらためて確認できる。


それにしてもBJという男、真摯な人間が必死に命を救おうとする姿に私は激しく揺さぶられてしまった。
このOVA版、本当に内容も作りも濃い。ドラマチックなミステリであり、原作より格段に視覚に訴える描写力が凄いです。
とてもカッコいい作品でした。

投稿 : 2013/11/18
閲覧 : 631
サンキュー:

18

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