STONE さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
サイバーパンク的世界の泥臭い刑事もの
サイバーパンクベースのディストピアもので結構好きな世界。萌え要素などを一切廃した
クールな作画は内容に合っていてなかなか良かった。
全体的な印象としては、世界観や映像イメージなどに過去に発表された各種作品の影響を強く
感じる。
第1話の雨降る中の街の映像、特定事象用に特化された銃であるドミネーターなどは
「ブレードランナー」を思わせるし、犯罪を発生させる前にその因子を摘んでしまう設定などは
「マイノリティ・リポート」を思い出す。
今書いていて気付いたがどちらもフィリップ・K・ディック作品だった。そう言えば
作品内でも槙島 聖護がディックについて触れていたか。共に映像イメージの影響と
いうことで、ここでは原作小説ではなく、その映像化作品を挙げてますが。
他にもサイバーパンク、バイオパンク系の作品の影響を強く感じるが、アニメ作品だと
近未来の対犯罪アクションということで、「攻殻機動隊」が頭にチラつく。
ただ、近未来的なサイバー、バイオ、メカなどの各種ガジェットに彩られこそするが、話の
ベースはむしろ泥臭い刑事ドラマの側面が強く、公安局刑事課一係のチームで事に当たる部分は
「太陽に吠えろ」を始めとする作品群を思い出すし、その一係の中の狡噛 慎也と常守 朱の
コンビで行動する部分は最近だと「相棒」を始めとするバディものを思わせる。
逆に捜査対象側である犯罪者側は各種サイコキラーものの影響が強く、王陵 璃華子の事件で
収監されている潜在犯に話を聞きにいくくだりなどは「羊たちの沈黙」を始めとするレクター
ものを思い出す。
過去作品を数々挙げてしまったが、別にパクリだのなんだの言うわけではなく、むしろ各種
要素をうまくまとめたなという好印象の方が強い。特に近未来ものはスタイリッシュでクールな
ものになりがちだが、こういった世界観に泥臭くて熱い人間ドラマをうまく融合させたなと。
ストーリーに関して、局所的には犯罪捜査主体だが、大局的にはシビュラシステムに管理
されたディストピアものの側面が強い。
多くのディストピアものは、主人公及びそれに連なる者が管理システムに抗う展開が多いが、
この作品では犯罪者である槙島 聖護と、彼に魅入られた犯罪者達がそれを担当しているのが
面白い。
実際、システムに依存している一般人より、彼ら犯罪者達の方がまともな人間的感性を持ち
合わせているのがなんとも皮肉。
このシステム依存という部分に関して、中盤のサイマティックスキャン妨害ヘルメットによる
犯罪に対する一般人の対応が印象的。目の前で殺人が行われても、自分の視覚による情報より、
システム判定を信用してしまうのが怖い。
自分なんかも、自身の土地勘よりカーナビを信用して、結局遠回りになってしまうことが多々
あり、将来的にはこういう状況は起こりうるかもと思ってしまった。
この局所的要素と大局的要素の比重だが、主役格である狡噛と常守にそれぞれ照らし
合わせると異なってくる。
狡噛主体で観ると、槙島に対する復讐譚といった色合いが強くなるが、常守に焦点を当てると
人間とシビュラシステムの関係性といった要素が強い。
当初、常守はシビュラシステムの恩恵にあずかっていた部分が強く、実際に平凡な女性である
常守が公安局に入ることができたのはシビュラによるもの。
しかし、いざ現場に出るようになるとシビュラの矛盾点が目に付き、やがてシステムの
完全性に疑問を抱くようになる。
最終的にシビュラの正体を知ってしまうが、それでも秩序を破壊してまでシビュラを否定
しようとは思わない。この辺はアナーキストである槙島との違いだが、白か黒かではなくグレー
ゾーンで話を終わらせるのが、ある意味リアル。話としてはモヤモヤした終わり方ではあるの
だが。
このシビュラシステムの正体はクライマックスの一つであるのだが、電脳システムの核の
部分が実は人間だったというパターンは結構あるのであまり驚きはなかった。
あとストーリー原案が虚淵 玄氏ということで、「まあ普通じゃないだろうな」と最初から
構えて観ていたというのもある。こういうのは先入観を持ってしまう自分が良くないと思うの
ですが。
驚きはないと書いたが、オートメーション工場みたいな場所で物理的に脳を移動させている
描写は思いの外アナログな感じで、ある意味驚いた。
ストーリー構成に関して、大枠はいいがもっと描いてほしかった部分、逆に余計に感じられた
部分があった。
前者はもっとチームで捜査に当たるところが見たかったが、狡噛・常守コンビに焦点を当てて
いるため、尺の関係上仕方ないか。
逆に後者だと、中盤の六合塚 弥生の過去をピックアップした回などはその後に話が
繋がらず、どういう意図であそこに突然出てきたのかよく判らなかった。