STONE さんの感想・評価
4.1
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
全てのことには、わけがある
原作は未読。
現代を舞台にした魔法バトルもので、序盤は「はじまりの樹」と「絶園の樹」による世界の
存亡と、滝川 吉野の彼女にして、不破 真広の妹である不破 愛花の死の謎解きが絡むシリアスな
展開。
ここでは吉野、真広の二人の主人公に加え、無人島に流された魔法使いである鎖部 葉風の
三人を主軸に話が進むが、ここで三人と同じくらい存在感を放つのが愛花で、既に死んだ
キャラでありながら、これでもかとばかりに過去回想シーンを織り込むことで彼女の存在を印象
付ける。この愛花の存在感が増すことで、一介の高校生である吉野と真広がなぜ危険な行動に
及ぶかの説得力を持たせているみたい。
この回想シーンでの愛花の何気ないような発言は、後に話が核心に迫ると、かなり深い意図が
あったことが明らかになったり、吉野の行動を左右するものであったりと、なかなか面白い
仕掛けが施されていた。
ここでは「ハムレット」、「テンペスト」の2つのシェイクスピア作品が話題に挙がったり、
その台詞が引用されたりする。当初は「作品の雰囲気作りのために引っ張ってきたのだろう」
ぐらいに思っていたが、これも後々に意味を持った使用であったりと、なかなか侮れない。
作品内で出てきた「全てのことには、わけがある」を地で行っている感じ。
魔法の設定も、アニメや漫画で一番映えるであろう攻撃魔法を無いものにしたり、いくら魔法
使いとしての能力が高くても供物が無ければ魔法が使えないなど、他の魔法モノではあまり
見られない試みがなかなか面白かった。
序盤こそストレートなシリアス作品といった感じの作品が、中盤以降になると様々な顔を見せ
始める。
登場こそボスキャラ然としていたが、いつの間にかいじられキャラになっていた鎖部 左門を
中心としたシュールなコメディ要素や、現代と2年前を葉風が時空を越えて行き来する展開や
「はじまりの樹」が異星人がもたらしたものとするなどSF要素も追加される。
後半に入り葉風が吉野に恋愛感情を抱くようになるとラヴコメ的展開に、更に前半で敵味方に
分かれていた者同士が同じ家で暮らすようになるとホームドラマの様相も呈してくる。
終盤で愛花の死の真相が明らかになるくだりはその悲劇的内容からいわゆる泣ける話に
なって、最後は大バトルの末に、各キャラのこれからを描く人間ドラマとして終わる。
ここまでてんこ盛りだとメチャクチャになりそうなのだが作品世界を壊しておらず、
それなりに凝った話を破綻なくまとめているのも凄い。
愛花の死に関しては悲劇的要素があるが、基本的には全キャラがハッピーエンドで終わると
いうのも、この作品には合っていたかな。
愛花を殺害した犯人捜しに関しては、「自分は犯人ではない」と思わせる独白をしている
キャラでさえ、他作品でよく見られる多重人格や記憶喪失などの設定を使えばありえるわけで、
全キャラが疑わしいと言えば疑わしい感じだった。
逆にいかにも本命っぽいキャラがいなかったこともあって、真相が愛花の自作自演による自殺
だったこと自体に驚きはなかったが、ここに至るまでに愛花の人となりをていねいに描いた
ことが効を奏して、いかにも彼女がやりそうなこととして説得力があった。
ストーリー展開も良かったが、キャラもかなり魅力的。
激情型の真広、醒めた感じの吉野とタイプは違いながら、二人とも大人をも手玉に取る大胆
不敵さを見せるが、その二人をもあしらってしまう愛花は更に上を行く。
大胆という意味では葉風もかなりのものだが、吉野を愛するようになると乙女になって
しまうのが、ギャップ感もあって愛らしい。
地球規模の存亡を掛けた事態であるのに、その行動理念に関しては、吉野と真広は愛花の
ことを、愛花は吉野と真広のことを思ってのもので、最初こそ「はじまりの樹の姫宮」としての
使命感で動いていた葉風も最終的には吉野を思ってのものと、いずれも身近な愛する者を
思っての行動であるところが面白い。
この主要4人以外の脇キャラもなかなか魅力的なキャラが多かったが、いずれのキャラも
感情に任せて暴走することなく、割と理性的に行動するのが面白い。ちょっとみんな物わかり
良すぎるとも言えるけど。