「風立ちぬ(アニメ映画)」

総合得点
71.8
感想・評価
815
棚に入れた
4289
ランキング
1270
★★★★☆ 3.8 (815)
物語
3.9
作画
4.3
声優
3.3
音楽
4.0
キャラ
3.7

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ネタバレ

雷撃隊 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.1
物語 : 3.0 作画 : 4.0 声優 : 2.0 音楽 : 3.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

さらば、宮さん。ご苦労様でした

酷評です。あくまでも私見なのでご容赦下さい。でもどうしても書かずにはいられなかったので。

まずアニメに関わらず昭和初期の映画や戦争映画に言えることだが、子供がカッコイイと感じてはいけない。用兵論やメカアクションはオタク向けと言われる。軍人や技術者の国家的使命の栄光、国防論は翼賛的とぶったたかれる。客がアメリカやかつての交戦国に敵愾心を持ってはいけない。また外国人の客を刺激してはならない。つまり周りの顔色伺いながら当たり障りの無い映画しか作れないのが日本映画の現状だ。本作も例外ではない。主人公は零戦の設計者の堀越二郎だが、この映画を一見さんが見たらよく判らない人も多いのでは? あくまで宮崎監督の妄想、フィクションといってしまえばそれまでだが実在の人物を出す意味がない。ドキュメンタリーとしては間違ってはいないし概ね正しいが抜けている箇所が多すぎて肩透かしだ。なんか病気の奥さん抱えたサラリーマンのホームドラマでこのシナリオだったら二郎本人である必然性がない。しかも奥さんは架空の人物だしこれなら三菱の平社員で十分だ。

もう一人、二郎の相棒として本庄季郎が登場するが、この人は96式陸上攻撃機の開発者だ。零戦は真珠湾攻撃を成功させるが96式はマレー沖海戦でイギリス戦艦を撃沈する。ほぼ同日に戦果を上げる、そして地獄の扉を開けてしまう。堀越、本庄が開発した飛行機とその運命にテーマを絞り、ハワイ・マレー沖海戦に繋がるならまだ分りやすいが、二郎を架空の奥さんと結婚させたことでシナリオは分断。現代的な「仕事と家庭」の話になってしまい魅力半減。もっと語るべきことあるだろうに。

航空開発史の光と影、夢と狂気、天国と地獄というテーマはよく出来ているが対比が弱い。終始美しい映像ばかりで地獄の苦しみの部分があまりにも弱くナマヌルイ。5分10分でいいから子供が怖がるような戦闘シーンがあれば全体が引き締まるがこれじゃ中途半端だ。暴力描写も痛々しい精神描写も皆無。食べ物に例えると上品な薄味の料理で毒の成分も辛いスパイスも無し。挑戦的、挑発的な暴力性が全く感じられないのは残念この上ない。初代ルパンが懐かしい。また零戦の登場がラストだけなのはまだしも9試二号機が集大成として登場するのは違和感がある。あれは96式戦闘機のプロトタイプであり、ゼロの先祖なのは確かだがゼロの直接の親は12試艦戦である。一見さんに誤解を与えるだろう。分りやすさを求めるならクライマックスは12試艦戦にするべきだろう。また日本軍機の構造的欠陥のひとつに装甲の薄さとガソリンタンクの巨大さが上げられるが、あれは航続距離ばかり追求した軍令部や航空本部の誤った用兵思想であり、二郎たち設計者はずっと警告を続けていた。本庄が少しだけガソリンタンクに関する台詞を口にするがそれだけだ。この辺をもっと詳しく突っ込めば「負けの原因」の説明になるのだが・・・

あと堀越二郎は白人の人種差別と戦った人物でもある。当時の日本の航空技術は「たかが黄色人種」だの「未開民族の猿マネ」だの現代では考えられないほどの差別と偏見に晒されていた。このあたりは司馬遼太郎の「坂の上の雲」を参照されたい。外国人相手の商売ではもはや絶対描けない歴史の真実だ。しかしゼロの技術は戦後の日本を工業大国へとのし上げた。この点も描くべきだろう。希望の象徴としてYS11(二郎が戦後に開発した国産旅客機)を出せば現代にも繋がるのに・・・

多くの人がジブリ・宮崎のブランドが最高峰と思い込んでいる現在の状況はもはやアニメのみならず日本映画にとってマイナスだろう。日本のアニメ業界には監督、脚本家、デザイナー、作曲家、声優に至るまで良質の映画人、カツドウ屋が沢山いるのにジブリ・宮崎ブランドの巨大すぎる知名度が邪魔をして多くの人から「知る機会」の妨げになっている。この状況をなんとかしないと周りが伸びないだろう。誤解の無いように言うが宮崎監督は偉大だしジブリも必要不可欠の会社だ。しかし最高峰ではなく「数ある良いものの一つ」である。全てが名作ではなく名作、駄作の玉石混交である。でもそれこそが大事だと多くの人も認識すべきだ。

文句ばかり言ってきたが、観て損した気分にはならなかったし引退宣言ないし遺書としては納得できた。最後に一発暴言かまして欲しかったけど。これまで多くの傑作、駄作をありがとうございました、監督。日本映画史になくてはならない仕事の数々、お疲れ様でした。

投稿 : 2013/11/10
閲覧 : 228
サンキュー:

10

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