「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 新編 叛逆の物語(アニメ映画)」

総合得点
86.8
感想・評価
1963
棚に入れた
9970
ランキング
185
★★★★★ 4.2 (1963)
物語
4.2
作画
4.3
声優
4.2
音楽
4.3
キャラ
4.2

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ネタバレ

雷撃隊 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

自己犠牲の真っ向からの否定 いいじゃん、これ  追記、DVDで再度観賞、研究の経過報告

前作はまどかの自己犠牲と新たな秩序の構築で幕を閉じたが、今回はほむらがまどかの自己犠牲と新秩序に対して叛逆を起こす。賛否両論あり、観客の「自分なりの解釈」が必要な映画だが、挑戦的でTV本編に対するアンチテーゼでもあり、いささか強引ではあるが、励みになる作品だ。大雑把に言えば神様まどかをほむらが襟首引っ掴んで人間社会に連れ戻す話だ。結局大勢を援ける自己犠牲って家族や友人や恋人など「身内の人間」のことは置いてけぼりで自分自身も幸福になれない。だから時にはぶん殴って「自分自身と身内のこと」を考えさせるのも大事だろう。現実社会に喩えると大勢を救うために紛争地域にボランティアに行った恋人ないし家族を「残される側を考えろ」と強引に日本に連れ帰るといえば解り易いかな。外に出れば凄い才能を発揮できる人を敢えて引き留めて「貴方の居るべき場所は此処でしょう、こんなにも貴方を愛し必要とする人たちがいるのだから」と自覚させることも必要だろう。あくまで個人的解釈だけど。「世の中全部の救いになるか」と「自分自身と家族、友達、恋人を幸福にするか」というテーマが見え隠れして、いろいろ考えさせられる。やっぱり人生について語ってるね。

もう一つ、自分自身の願いや欲望に忠実になれ。遠慮なんかしてたら幸福にはなれない。運命も不条理も力ずくでねじ伏せろ!!というメッセージも挑戦的だ。戦え、少女たち、そしてスクリーンの前の観客よ!!というメッセージ、確かに受け取りましたよ。虚淵さん、新房監督。素直に「一人ぼっちは嫌だ」といったまどか、運命に叛逆するほむら、いい具合に角がとれて共闘するマミ、さやか、杏子たち、それぞれ成長していた。どこかポジティブでアグレッシブで前向きに突っ走っててかっこいいぞ。


ラストのほむら、魔法少女でもなく魔女でもない「悪魔」になってしまうけど、よく見ればゼンゼン悪いことはしていない。仲間たちは全員生還させたしまどかも人間に戻したし、救済システムの「円環の理」も継続させた。悪魔というより「とても優しい大嘘つき」って表現がぴったりだ。やがてまどかも記憶を取り戻すだろうけど、その時は腹を割ってケンカするもよし、理想を語り合うもよし。今まですれ違ってばかりだった二人だけど、本気でぶつかったことって無いよね。少なくともこれからは時間はたっぷりあるからね。まだまだ人生先は長いぞ、魔法少女。戦って力ずくで未来を手に入れろ!!

さて、今回僕の中で株を上げたのはさやかかな。彼女のポジションは神様まどかの付き人だ。魔法少女の力と魔女オクタヴィアの力を使いこなす姿は人の(或いは自分自身の)善悪双方を受け止め肯定したようで、感慨深い。清濁併せ持ちながらの善意こそが本当の人間の善意だよね。以前の様な迷いとも無縁で苦難を乗り越えた戦士の強さがカッコイイ。
新キャラのなぎさはなんとシャルロッテだ。かつての敵キャラが味方入りだ。出番少ないけど重要な役だ。まどか本人も本格的に戦闘に参加。挿入歌に合わせて決戦のシーンはもう1つの魔法少女「なのは」を連想させられた。TVじゃ必殺技を決める場面が少なかったからこの点は嬉しい。梶浦由記さんの曲が冴え渡る。貴女こそ女神。いや、魔女と紙一重ですよ(勿論褒め言葉)。あとあの憎きインキュベーターが絶望に沈んだ挙句フルボッコにされる有様は拍手だ。人の心の尊厳を踏みにじってきた連中に鉄槌が振り下ろされた。せいせいするよ(笑)

悪い点  イヌカレー空間が多すぎで結構クドイ。序盤のタイムループ脱出作戦は「うる星やつら2ビューティフルドリーマー」は越えられない。やはりあれは傑作だった。劇中の専門用語多過ぎ。あれじゃ確かに本来のテーマが解り辛い。評価が分かれるのも納得。

もう1つ似ている映画を紹介します。ミッキー・ローク主演、ロバート・デ・ニーロ競演の「エンゼル・ハート」。主人公の探偵が追いかける殺人犯が実は二重人格である自分自身であった。しかも今の自分は悪魔との契約により出来上がった偽の人格で殺人犯の方が本来の人格だった、というオチ。中盤のほむらが閉じた見滝原の真実に辿り着く場面に似ている。一番の違いは方や破滅し方や叛逆に成功という点だ。このリスペクトは実に見事。

この映画って働き始めてしばらくたち世の中に妥協しかけてしまった社会人に対する応援なんじゃないかな?或いは善悪の判断が完成された大人に対して改めて多角的な道徳観念
を問いかけたのかも。二人の主人公まどか、ほむら両方正しいし両方間違ってもいるから。でもこれから二人が意見をぶつけあえる環境は整ったしまだまだ最終結論は出ないだろう。我々の現実でもまど、ほむコンビの抱える問題って人間社会の昔からの二律背反なのだから。でもアニメはこれで終わってほしいな。一見ダークに見えても登場人物みんなにゆっくり話し合う時間が出来たわけだから。彼女達の人生、これからだよ。みんながんばれ!!

主題歌カラフル、フルコーラスで聞くと本編の内容にぴったり。歌詞を吟味するとこれまた物語のイメージが膨らむ仕組みだ。「モノクロだった瞳の奥の景色 裏返した日常でまた
走って行く先に君はいた」「間違えでも信じた道は新しい景色を照らす」
「始めようまた1から 辿り着いた儚い奇跡壊れないように」「透明な私たちどんな色にでも染まる」「君と誓ったあの日の記憶、今超えて過去からまだ誰も知らない明日へと」いやー、反則でしょう、歌聞かないと映画の意味理解できんよ。それだけ神曲だってことだよ。「コネクト」「ひかりふる」「ルミナス」「未来」どれも名曲だ。今回はカラフルが超神曲。前作「ひかりふる」に対する叛逆だよ。「私が何処にもいなくなっても・・・最後の安らぎに届くから」を見事にひっくり返している。主題歌も物語の一部だね。


長々と書いてきたけど最後に、美しい自己犠牲の真っ向からの否定、挑戦的で凄くいい。戦って未来を掴み取れ、魔法少女たち。

DVDの限定版をゲットしたのでタダイマ何度も見て研究しているので経過報告をします・・・映画館じゃ気がつかなかったポイントが次から次へと発見できますねー、すげー。

まずOP、カラフルのイントロにボーカルが入る。CDにもワンコーラスバージョンが収録されていたけど再生しなかったのでこれは見落としだった。OPムービーに悪魔ほむのシルエットが一瞬映る。これも見落とし。序盤からBGMに「君の銀の庭」の動機が使用され終盤への複線になっている。隙が無い。
ほむほむVSマミさんの銃撃戦のシーン、改めて見返すとファントムやNOIR思い出した。ここではほむほむの銃器に注目。基本TVと同じながらシルバー、ステンレス加工のモデルに変更。舞台がほむほむの妄想の世界だと考えると彼女は使い慣れつつ趣味に走った銃器を使っているのだろう。さりげない美意識だ。恐らく作り手は道具で別世界の事件だとヒントをばら撒いているのだろう。これもまた隙がない。

さやかについて・・・
手痛い絶望と転落を味わって大きく成長。映画のさやか、同じ虚淵作品「サイコパス」に登場する宜野座刑事と被る。あちらも壁にぶち当たり降格処分と引き換えに人間的に成長。同じ作者の作風に共通点を発見。まどか好きな方「サイコパス」もチェックしてみては?

中盤以降、前作の次回予告で流れた曲のアレンジ版が頻繁に流れるがあのメロディーが「叛逆の動機」だろう。梶浦さん、オペラ的なBGMの使用法、流石です。挿入歌「MISTERIOSO」、一部ボーカルがフルートに差し替えられていた。この点も改めて気付いた。この曲聞くと気分は魔法少女。女装コスプレ気分(笑)。いいなー、ヒラヒラしてて華麗なアクションやらかして。ボクも魔法少女になりたーい。ガキのころは変身願望は仮面ライダーだったけど月給取りになって魔法少女とは・・・我ながら情けねえ(笑)。

映画「エンゼル・ハート」との共通点。やはりシナリオ、映像ともに影響を受けている。ゲーテのファウストを下敷きにした基本設定、召喚者と被召喚者の魂を賭けたパワーゲームだ。ラストの解釈はミッキー・ロークがロバート・デ・ニーロ演じるメフィスト・フェレスを出し抜いた場合のシミュレートとも解釈できる。ちなみに我等がQBさんのモデルはメフィスト・フェレスでまどかさんはグレーチェン(ファウストの奥さん)。今回のイヌカレー空間は「エンゼル・ハート」のニューヨークそのまんまだ。錆びた鉄格子や天井からボタボタ汁が垂れて来る描写や窓に隙間から差し込む光とか。新房監督、TVでは日本映画のリスペクトが多かったけど映画版は洋画のリスペクトですか、センスいいですねー。

副音声のコメンタリーがこれまたおもしれー、中毒性がある。なんか映画公開バージョンにほぼ全カットに手直しが入っているらしい。今となっては比較しようが無いけど。悠木さんや千和さんのトークで発見するポイントもやたら多い。キタエリさんの物語シリーズに関したトークも聞けるぞ。

HOMURA 1ST TAKE VERSION
悪魔ほむのシーンの最初に録ったバージョンとのこと。斉藤千和さんの演技がかなり違う。本編より無機的で悪役っぽいイメージだ。同じシーンでも別物だ。声優ってすげー。こちらもなかなかいいぞ。でも「君の銀の庭」はラストシーンのほむほむの心情そのもので切ないよー。「窓辺で囀って、何処にも行かないで」だから・・・今回、「カラフル」「君の銀の庭」共に「正しくなくてもいいんだよ」という歌詞のフレーズが多い。「正解なんかないんだよ」という千和さんのコメントも感慨深い。

いやー、また長々と書いてしまった。でも何回も研究する価値がある映画ですねー。

投稿 : 2014/04/29
閲覧 : 339
サンキュー:

29

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