Z旗新聞社 さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ファンタジー世界で描かれる貨幣経済の発達
「はたらく魔王さま」「ソードアート・オンライン」などに連なるメタファンタジーもの。と思いきや、実はファンタジー世界で描かれることのなかった経済に重きを置いた希有な作品。すごく面白かった。
そもそも魔族と人間はなぜ争わなければならなかったのか。すべては戦争のためだったのだ。魔力で武器や防具を生み出す魔族に比べ、生産する必要のある人間にとって、戦争は紛うことなき経済活動だったのである。戦争を引き起こす政府との癒着で莫大な富を得る欧米の軍産複合体など、現代には広く知られたこの認識も、ファンタジーの中でさえ例外ではなかったことを知らしめた点にこの作品の勝利があるのではないでしょうか。
例えば農地を4毛作にして生産性を上げてみたり、羅針盤を量産させて海洋貿易を発達させたりと、魔王のアイデアは数百年分の人間の進歩の歴史そのもの。さらに商人がはじめる収穫前の麦の買い付けは、先物取り引きが始まった瞬間でもある。そして麦が金貨と同等に貨幣のごとく流通しはじめて、為替が誕生。さらに政府が貨幣の流通量を増やしたことでインフレが進む(でもこれはインフレというより、金貨に混ぜ物をして流通量を増やした悪貨インフレ)。そして種族の垣根を超えた特区が経済的にも大発展するところなど、現実の経済事例をうまく織り交ぜながら、経済の仕組みが出来上がっていく過程が丹念に描かれる。経済発展とともに国民の意識も変革を迎え、農奴解放や悪政を強いる権力者の失脚など、民主化も進んでいく。ものすごくわかりやすい経済史の教科書を見ているようで、制作側の思いがしっかり伝わってくる。
「闘った、勝った、負けた、惚れた」だけの物語にうんざりしていた時期に見たので特に面白く感じました。ちなみに今やってる「勇しぶ」はかなり落ちます。