遥か彼方 さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
今だからレビューが書ける作品。誰もが、原作者すら認めなくても・・・・・・
あれはいつだったか「アニメ大好き」と言う夏休み特別番組が放送されていた時期、小さい頃観ていた作品の番外編をする事が解り、懐かしさと興味本位で見始めた。
「きまぐれオレンジロード」
春日恭介、鮎川まどか、檜山ひかるの三角関係ものとして有名だった作品だ。少し不良っぽく振る舞うミステリアスなまどかに惹かれた視聴者も多かったのではないか。
そしてドキドキしながら三角関係の行方を見守っていたと思う。
子供心に私は明らかにまどかに惹かれているのにひかるにも優しくする恭介の心理が解らなかった為、この三角関係は不可解でじれったいものでしかなかった。
その頃放送していたのはヒロイン一人に憧れの男子一人と言う恋愛ものが多かった(今のハーレムなど考えられない時期だ)でもこの決着の着かない三角関係こそがこの作品の一つの魅力でも有る、と段々と知っていった気がする。
そしてその夏に放送されたこの作品(映画らしいがそれを特別にTV放送してくれた様だ)これは完全にひかるとの決別の物語だった。
原作者さえ酷評していると公式で書かれているこの作品。
正直後味の悪さだけが残った人も多いだろう。
だが今私は改めてこれを認めたいと思う。
TVで視聴していた私のその時の感想は
ただただ拒否されていくひかるが可哀想で仕方無くて泣きまくっていた。
一番今でも鮮明に覚えているのが
もう無理だと解りながらも弁当(お菓子だったかも知れない)を作って恭介に持って行く。それを恭介は
「もうこんな事は辞めてくれ、もう来ないでくれ」
徹底的に拒否する。
それを観ながら「今私は何を観てるんだろう、これは何の作品なんだろう」とその展開の残酷さにショックを受けTVを消す事さえ出来なくて、そのまま見続けた。
「お願い、春日先輩!お願いだから!!どうして私じゃ駄目なんですか?」
と小さい頃聞いた可愛い声で恭介を引き留めようとするひかる。だが彼女が自分の為に作ってきたものを無理矢理振り払った恭介、そしてその場を立ち去る。
直後ひかるがそのもう振り向かない背中に向かって泣き叫んで言う。
「答えてよおおおおおおおおおお!!!」
暗闇にこだまするひかるの号泣。
直後家のドアを開け恭介が一言
「ごめん、ひかるちゃん」
この謝罪の一言がどれだけ私の心を救っただろうか。
そして
和田加奈子のED「あの空を抱きしめて」
http://www.youtube.com/watch?v=g3EnOHa0vuE
この曲が三人の思い出と共に流れる(因みにこれは私のアニソンベスト10入りしている神曲)そしてEDで特筆すべきはひかるが悲しみから立ち直って懸命にダンスの練習をしている姿。
数年前だがこの作品のレビューが突然気になりどこかで見ていたらこんな感想が有った。
これはひかるの成長物語なのだ、と。
それを読んだその時の私はまだそれに納得出来ず「でもひかるがあまりにも可哀想でそんな風に前向きに思えない」と言うのが正直な気持ちだったと思う。
だがそれなりに人並みの経験をした今なら、ひかるの成長物語の意味が解る気がするし、またそう言う意見があってこの作品が救われたのだとそのレビューに感謝している。
例えば今アニメで恋愛のもつれなどを描いたらどうなるか?一番分かり易い、極端な例ではあるがスクイズみたいなものが出来上がる。そこまでいかなくても今のアニメは本当の失恋の辛さを描いたものが少ない様に感じる。失恋の辛さから逃げる為に殺したり、恨んだりと言うのが多い気がする。
そう言う意味ではこの作品はあれだけ好きだったひかるが失恋して、それをめい一杯悲しんで自分の気持ちを必至で吐露して、EDでは立ち直ってその悲しさを真正面から受け入れている。
本当の失恋を描いた作品が少ないイメージと書いたが私がそう言う作品を知らないだけかも知れない。今「観たい」に入れている「とらドラ!」はそれっぽい感じがしているので期待している。
だがこれは長年想ってきた相手に本気で失恋してそれを余すことなく描いている、今日には希で貴重な作品だと思った。
誰もが恭介が一人を選ぶ筈がない。三人の曖昧さが魅力の作品でここまで一人を選ぶために一人を傷付ける。そんな事この作品では許される筈がない。そう思った視聴者が殆どだろう。私も細かい所は昔過ぎて覚えていない。ただどうしようもなく壊れていく三人と、ひかるの絶叫と、恭介のひかるに聞こえない謝罪と、涙が止まらない中で流れてきた曲だけは、昨日の様に心に焼き付いている。
失恋とはこれほどどうしようもなく辛く、悲しいものなのだと今まで観た中でこの作品だけが現実を突き付け教えてくれた気がする。
原作者に認められなくても良い。
今こうして何かを考えさせてくれていると貴重に思える私だけでもこの作品の存在を認めたいと思う。