退会済のユーザー さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
タイトルなし
率直に言えば、今観て良かったと思える作品でしたね。
というのもこの作品、目新しいものなどなにひとつない。あるのは【理想】と、在りもしない【懐かしさ】。
理想も懐かしさも、どちらも遠くなればなるほどに、その価値は上がる。魅力も増す。
本作で描かれる風景は、人と人が諍いなく、いがみ合うこともなく手と手をとりあうことに疑問も抱かない。人の温かみと笑顔が絶えなくて、日常の中には、ちょっとした不思議がある。
そんな理想の風景は、今やイメージすることさえ叶わない。
そして、本作の田舎は、体験したこともない【懐かしさ】を想起させる。(懐かしさという漠然とした感覚を絵に描き起こす宮崎さんはやっぱり凄いよなぁと改めて感心する)
この二点に焦点を絞って描くことに終始した本作は、年を重ねるだけ作品としての価値を増していく。そんな作品、そうはない。どんな作品だって、観るに相応しい時期というものがある。旬を逃せば観ることによる面白味が、旨味が減っていくのが普通だ。
それとは真逆をいくのが本作であり、つまりは本作の凄いところなんだよなぁ。
こんな田舎がないなんて、そんなことは分かり切っている。
しかし、羨ましいと、そう思わずにはいられない。この作品の中だけにしか存在しない、あるいは僕の知らない時にあったのかもしれない豊かさとのどかさに、焦がれてしまう。
とはいえ理想の風景に懐かしさを加えただけで80分はツライ。
だからこその、トトロ。
【トトロとの不思議な体験】ではなく、【トトロという不思議な生き物】に留めた点がまた、本作の巧いところだろう。
このトトロ、行動の一切に意図が見えない。
バス停でバスを待っていた理由、夜にオカリナを吹く理由、あの謎の儀式(結局、夢だったのかな?)、サツキのお願いに対して歓喜の表情を浮かべたり(断じて、恩返しができて嬉しがってる風ではなかったし)、とにかく【よく分からない】という部分だけが一貫しており、それが破られることはなかった。
だからこそ、トトロの魅力は尽きない。
決して明らかにされることのない不思議――それを象徴するのが、トトロなんだろうな。
トトロの謎が明かされてしまえば、それ以降トトロはもう不思議でもなんでもなくなる。ただの妖精だ。
そして、そんなちょっとした不思議は、いつだってとなりにいるんだ。
本音を言えば、理想であり、懐かしさを象徴する田舎の風景こそ良かったものの、田舎の人物との交流が薄味だったこと(とくに勘太とサツキのやり取りとか、EDにあったようなメイと幼児の交流とか欲しかったよな)、これだけが不満だ。終盤は里の人総出でメイの捜索を行っていたのに、そこにあるはずの【人の温かさ】は演出されていなかったのが残念。
半永久的であり、極めて普遍性の高い【懐かしさ】と【理想】と【不思議】が感じられる作品。それが、【となりのトトロ】に対する、僕の認識だ。