ぱこ さんの感想・評価
2.8
物語 : 2.5
作画 : 3.5
声優 : 2.5
音楽 : 3.0
キャラ : 2.5
状態:観終わった
子ども向けでもなく、大人向けでもなく
劇場上映作品であるため、作画や背景の美しさは文句なし。同監督作品恒例の俳優を起用したキャストも目立って問題はないが、やはり登場人物の感情が顕になるシーンでは演じ方の違いからか普段声優の演技に慣れている身としては△。音楽はミスマッチというほどでもないが、別段印象に残るほどではなかった。
だが正直に言って、具体的にどの層をターゲットとした作品なのかがよく分からなかった。大人向けというには考えさせられるほど深い内容でもなく、子ども向けというにはワクワクさせるような展開もなければ大人の微妙な立ち位置や苦労を理解しろというにも無理がある。
偶然狼男と結ばれ、やはりその性質を受け継いだ二人の子どもを育てることになった平凡な母の物語、という題材に惹かれて鑑賞したが、総合的には「狼男」という非日常的な存在はこの話には必要なかったように思う。
何しろ、全てのきっかけとなった子どもたちの父であり主人公の夫でもある狼男は、作中で名前も明かされぬまま前半で呆気なく死んでしまう。(彼の死因は不謹慎ながらあまりにお粗末だと感じた)その後、問題を抱えた二人の子どもを懸命に育てる母の苦労も原因が「狼になってしまう体質」である必要がまったく感じられないのだ。
展開はそのままに狼男の要素を一切なくし、「夫に先立たれて二人の子どもを抱えた母親の子育て苦労話」としても問題ないとさえ考えられる。
終盤、子どもの頃はいくら止めても自分から狼になってしまうやんちゃな長女が人間として生きる道を選び、逆に狼になることを怖がっていた長男は次第に野生に目覚めて狼として生きることを選択するという対比が描かれているが、それもまたジブリ作品にありがちな「人と自然(超自然的な存在)は結局最後には共生できない」といったテーマを表現しようとしたのなら、幾らばかりか物足りない。
思春期を迎えて子どもたちが自らの生き方を決めようとしている姿に向き合う母のあり方も、至って普通の母親のそれと同じで何ら特別性も感じられず、クライマックスのシーンに至っては私はただ首を傾げるしかなかった。
余談として、『サマー・ウォーズ』でも指摘されていた、「田舎の人々の温かみ」のようなものを押し出す風潮がこの作品においても随所で感じられるが、私は別段胡散臭さを感じるほどではなく、特に気にせず済む程度のものだったように思う。
などと捻くれた意見を散々連ねてしまったが、この監督の持ち味として相変わらず雰囲気作りは上手いので、深くツッコまずに楽しめる人には爽やかでいいドラマなのではないだろうか。