lostman6 さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.0
作画 : 3.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
一夏の「キセキ」。等身大の物語。だから、等身大で見よう。
「夏色キセキ」は、静岡県下田市を舞台に、そこに住む4人の女子中学生の成長を描いた一夏の青春物語である。
主人公の逢沢夏海、水越紗季、花木優香、環凛子は、小学生の頃からいつも一緒に遊ぶ同級生で、将来はアイドルになるという同じ夢を持っていた。しかし、中学2年生の夏休み直前になると、紗季の様子がおかしくなり、突然転校することを知らされてしまう。
夏海は、その事を隠していた紗季を責め立てるが、ある不思議な体験をきっかけに2人は仲直りすることになる。それからというもの、4人は「御石様」への願いごとを通して、様々な出来事に遭遇しながらも、いつしか4人で一緒にいられる最後の夏休みを過ごすため、1日1日を大切に過ごすようになってゆく。そして、彼女たちか夏休み最後の日に叶えた願いとは——。
この作品を観た人の多くは、きっとコレといって特徴のない地味な印象を受けることだろう。本作品は、キャラクター性を強調したハイコンテクストな日常系ではないし、不思議体験を重視したSF物でもない。練り込まれたストーリーを読み解く必要もなければ、最後に度肝を抜かれる超展開が待ち受けているわけでもない。
しかし、そのような過剰な味付けをしなければ評価されなくなってしまった昨今の深夜アニメの、歪んだ価値観を取り払って最後まで見て欲しい。この作品は、どこにでもいそうな等身大の女の子の青春を、ただひたすらに最後まで真面目に描ききっているからだ。
物語の中で扱われる要素の範囲は狭く、「引っ越しに直面した4人の心情」のみが描かれていく。あくまで彼女たち4人の間に生まれる距離感、個々の仕草や言葉から読み取れる微妙な心具合、そして生まれ育った街や、そこに住む人々との関係性に焦点が定められ、余計な雑音は出てこないようになっている。
そのため、作品の中で妙なイヤらしさは一切なく、スポーツの後にかく汗のように清らかで清々しい。シンプルでストレート。クドくなく、胃もたれしない。完璧じゃない。だから自然体。この作品は、そのような言葉で表現することができる。
情報量の多い作品が当たり前となり、新作アニメに対する期待値が高まり続ける中で、視聴者は一つの作品に対して固定観念を覆されるような衝撃的な体験を期待し過ぎてはいないだろうか?
この作品は、同時期に放送していたアニメと比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。しかし、トレンドの移り変わりや、時代の洗礼を受けても普遍的に見る事ができる作品とはこういうものである。それはスフィアが歌うオープニングとエンディング曲にも現れている。この「夏色キセキ」という物語は、観た者に強烈な印象を与えない変わりに、10年後に観ても同じような評価をされる存在と言えるだろう。
最後に、タイトルに付けられた「キセキ」とは一体何だったのか。恐らくそれは、彼女たちが一夏の青春で描いた「軌跡」のことだったのではないだろうか。
▼きっとこんな人におすすめ
・ストレートであっさりした青春モノが好きな人
・過剰な演出や重い展開の作品を見る気がしない人
・過度な期待をせず最後の12話まで見る気のある人