plm さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
美しい海に流れだす感情
キャラクター原案はブリキ(電波女と青春男、僕は友達が少ないなど)、
シリーズ構成を岡田麿里(花咲くいろは、あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。など)が担当する
P.A.WORKSの新作オリジナルアニメーション!
海底にある村と陸に分かれ住む人々の、すれ違いながらも育まれていく絆を、
心情豊かな少年少女たちを中心に描いていく物語。
作画は流石のP.A.WORKSで、繊細美麗な自然や海の景色。海中や水の描画は清涼感溢れ、
キャラクターも大きな瞳が綺麗で、ブリキ絵のデザインも映える。
人間ドラマ的作品ではあるが、"海村"や"エナ"といったファンタジー要素を盛り込むことで、
独特な世界観を作り上げている。
◇ 期待と懸念、そして視聴後感
非常に期待はしていた作品だったが、物語展開が合うかどうかに不安もあった。
というのも、「花咲くいろは」は朝ドラすぎてあまり感情移入できず苦手で、
「あの花」も1話では引きこまれたものの、それ以降の盛り上がりに物足りなさを感じてピンとこない。
そういう経緯から、マリー脚本はあまり感性が合わないんじゃないかという印象があった。
それが視聴後どうなったかというと、……終盤を観たら満点あげたくなるくらい素晴らしかった。
相対評価でいえば、同時期とか昨今観たアニメでは抜きんでて傑出していた。
この作品の本番は2クールから。それまではいわば"凪"、風がおさまった波の穏やかな状態だった。
それが2クールが始まるのと同時に物語が一気に動き出す。
後ろ半分13話は本当に1話たりとも見離せない面白いエピソードの嵐だった。
■変わらないものと変わっていくもの
{netabare}「凪あす」のお話の主軸となっているのは感情の揺れ動きで、
中でも登場人物の多くが抱える心の葛藤というのがこの「変わること」への認識だと思う。
恋い焦がれる感情を持てども、それとどう向き合えばいいのか迷い、
今の関係を失いたくない、変わりたくない、と踏み出せずに想いを秘めていく。
それを最も体現しているキャラクターは"ちさき"だろう。
人一倍感情的なキャラなのだけど、理性で心を押し殺してしまう性格。
反対に、想いのまま素直に振る舞い踏み出していくのが"まなか"であり、
"光"はそんな彼女らを振り回したり、振り回されながら色々なことを学んでいくキャラだった。
少年少女たちがお互いに抱く、人を思う淡い感情を掘り下げていく、というのが序盤の構図だ。
とはいえ少しずつ関係は深まるも、肝心な想いは殻を破ることなく、どこか一歩通じ合えない。
これが1クールまでのお話だった。本格的に動き出したのは2クール目、
状況を変えたのは、否応の無い時の流れだった。
人の心は移り変わる。過ぎ去った日々の淡い想い出は、時に薄れ、時により強いものへと。
ちさきはここでも、世界が変わる中で過去を見つめ続ける停滞した時を象徴する存在だった。
一方そこで登場するのが、過去の想いが今に結び付いて動き出す、成長した"美海"。
「凪あす」で最も好きなキャラだ。
それだけ色々な場面で感情移入できた、2クール目からの主人公ともいえるキャラ。
目の前のことに一直線でいつも一所懸命、ビョーキなくらい想い続ける純粋さ。
そういう真っ直ぐなところに惹かれる。
光は、短気で行動派だったけど、何だかんだで"元の場所に収める"ことを大事にする、
実は"変わりたくない"と考えるちさきに似た性格だったんじゃないかと思う。
でも、美海はどちらかといえば物語を"動かす"キャラだ。
理性的に考えながらも(そこがまなかとも違う)、押していくキャラ。
傷つき苦しむことがあっても、それが無ければ良かったとは思わない。
好きという気持ちをひたすらに肯定するキャラだ。
それは美海が好きという気持ちと向き合ってきたから、
人を好きになる気持ちが、ときに辛い気持ちを生むことを知っても、
それでも乗り越えられた過去があるから(それを教えたのは5話の光なのだけど)できるのだ。
辛い経験に真っ向からぶつかったおかげで、気持ちの向き合い方を知ることができ、
そういう意味では誰よりも大人だったけど、それを想い続けられる幼さも併せ持っていた。
だから「変わること」を恐れずに向き合うことができる、美海の魅力だと思う。
*
もう2クールの途中あたりでメーター振り切ってしまってて、どう足掻いても高評価したかった。
それだけに最終話がどうなるかは一番怖いところだった。
でもそんなハードルの上がりっぱなしの中、最後に持ってきた海神様の話は、
まなかや海に起きていた問題と、光の苦悩にリンクするもので、
海神ですら、揺れ動く感情に振り回されていたのだったのだと知る。
そんな中「おじょしさま」が美海に重なることで、真意は明かされ、ついには心が通じ合ったのだ。
繭に閉じこもっていた感情は流れ出して、人々の絆を繋いでゆくのだろう。
作品テーマに決着をつけつつ、切ないながらジンとくるエピソードで最後まで感心させられた。
最後は言葉にしてほしかったなあ、という気もするけど、ああいう意思疎通もありかな?
それにしても繭化した美海が美しすぎて、なんだか神々しかった。{/netabare}
ここまで感情揺さぶられるアニメはそうそうないだろう。
心情描写が良い作品はやっぱり面白いんだ!ということを認識させられたアニメだった。
恋愛ものや青春もの、考えさせられるものが好きな人にはぜひおススメしたい、稀代の名作。