シェリー さんの感想・評価
4.3
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
「それもまた、矛盾なのさ。」
この物語は堀越二郎が生きた人生の一掴みを描いたものです。
彼の生きていく上で体験すること、感じるものが描かれます。
それは現実であったり、夢であったり、メタファーであったりとたくさんのものを用いて、巧みな描写によって語られます。
そこからみえてくるものに、なにかを感じずにはいられないと思います。
無理に一言に押し縮めるのならば「小説のような映画」といったところでしょうか。イメージ悪くしないでくださいね。
この映画を観て本当に感動いたしました。感じたことのない気持ちになりました。
アニメーション映画でよくもここまで丁寧になにかを表現できたものです。
それにしても宮崎駿監督作品はどこまでいっても彼のものでしかないと改めて思いました。
「ジブリ」という言葉で十把一絡げにまとめることはできませんし、やはりどこか新しさを感じます。
彼の映画の人の描写が本当に上手だと思います。
その人らしさというか、はっきりと1人の人間であることを認識させてくれます。良いところも悪いところも含めて。
本作でもそれは十分なほどに描かれています。
ただ、どうして庵野さんを使ったのでしょうか。声が低いよ、上手くないよw
でも自然とそれほど気にならなくなるのはストーリーと画に不思議な魅力があるからなのでしょう。
あくまでもそれほど、ですが。
本当に観て良かった作品でした。
この作品からそれぞれが受け取るパズルのピースは
ゆっくりと「自分」の中に沈殿し、長いときを経て予言のようにささやいてくるでしょう。そんな気がします。
{netabare}
この作品で初めて涙が首までつーっと流れました。あんなに静かに泣いたのは初めてでした。
では中身へ。
菜穂子さんの不憫な描写は心をえぐるようでした。
最期なんて切なすぎます。自分の死が近いのを分かって綺麗な所だけを見せて自分は去る。
思い出しただけで、、、ああ、やるせない、なんてやるせない。
話の時系列は逆になりますが他にも山で毛布にくるまりミノムシのような姿で並べられている療養シーンや
家で病気で寝込むしかなく二郎の帰りを待つだけであり、しかも化粧して健康的にみせようとまでするなんて。
もうホントに観てられませんよ。うぅ、、、
でもここで、二郎ひどいぞ!と実際そうではありますが責められない部分もあります。彼の仕事、そして夢のために。
もし辞めていたら菜穂子さんは怒ることでしょう。彼女の父も、本庄も、会社の人間もしつこく介入してくるに違いありません。
また時代のこともあるでしょう。そんなことになってしまってはますます居場所がなくなってしまいます。
そしてなにより、仕事をしているときの顔が好きと言ってくれる菜穂子のためにも。
でもいくら頑張って成功したところで菜穂子さんが幸せになるわけじゃない。
矛盾。
ドイツで本庄が言っていたこと。
「貧乏な日本が飛行機を持ちたがる。矛盾。」「仕事のために所帯を持つ。矛盾。」
ここがこの映画が言いたかったことなのではないかと個人的に思いました。
矛盾。この世は矛盾と不条理に満ち溢れている。論理的なものごとより、そうでないものの方が多い。
それにいくら論理的に正しかろうが割り切れるものがそう多くはないということ。
自分と矛盾の妥協点。あるのでしょうか。
僕はラストの場面でもこのことを感じました。
飛行機に乗りたかったけど、近視ではなれない。
でもカプローニさんが教えてくれた。設計士は夢を形にするのだと。
しかし、今一度見てみれば空を飛ぶために作った飛行機は戦闘に使われたったの一機さえ飛んで戻ってこない。
夢の残骸によって血塗られた丘の上に二郎は立つ。夢は彼が走る方向とは逆に失落の一途へ向かった。
菜穂子もいない。これがここまでやってきた結果なんだと彼は知る。
でもここに救いがありました。彼のここまでに対しての報いなのでしょうか。
カプローニさんが菜穂子さんに会わせてくれました。彼女のたった一言「あなたは生きて。」
矛盾を生きる中でどこかあたたかいところに手を置けるということ。
春の陽だまりのようなあたたかさ。それは昔も、今も菜穂子さんでした。
本当にあたたかい愛です。
二郎さんを観て自分にもこの先こんな日が来るのかとも思いました。
いつか自分の生きた道をふと振り返ることがある。
突然、自分のやってきたことがなんなのかということに気がつくときがくる。
(それは宿命的に事後にしかわからないものであると思います)
そのときにふと、この映画が思い出されるような気がします。
本当に観て良かった。
また視聴回数を重ねるごとに新たな発見もあることでしょう。とってもいい映画でした。
{/netabare}