無毒蠍 さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
非常に美しく繊細で優しい作品。そうこれは"愛"よりも昔、"孤悲(こい)"のものがたり。
孤とは「ひとり」ということ。
悲とは「かなしい」ということ。
孤悲(こい)とは愛のように二人で確かめ合うようなものでもなく
恋のように実感できるようなものでもない。
それ以前に孤悲(こい)とは恋をするための準備期間のようなものなんだと思いました。
この二人は一人はやはり悲しく寂しいものである…
まずはそこに気づくところから始める段階だったんだと思う。
新海誠監督の作品は「ほしのこえ」と「雲のむこう、約束の場所」以来でしたが
とても素晴らしかったです。
楽しかった、というのとはちょっと違うんですけど僕の中でこの作品は殿堂入りですね。
一時間にも満たない尺の中で二人の出会いから二人の歩きはじめまでを丁寧に、
そして繊細に描いており観る人の心を魅了します。
私はブルーレイ版を購入し視聴したのですがこの作品の魅力を最大限味わうためにも
ぜひブルーレイ版での視聴をオススメします。
というのもこの作品の魅力は孤悲(こい)"のものがたりと、
二人の間に広がる美しい世界だと思うからです。
ブルーレイ版での画質で味わえる雨の庭園こそが
タカオとユキノが孤悲(こい)から脱却した世界なのです。
雨粒ひとつとってもクッキリ見てとれて、とても美しい世界でした。
作中の多くが雨のシーンで構成されているのですが雨音がセリフの役割を担っていたと言っても
過言じゃないくらい存在感があります、この作品で雨というのは重要なファクターでした。
雨の日だけ会う二人…雨を楽しみにしてるというか雨を望んでいる二人の心情というのが
短い尺の中で違和感なく描写されていて物語の組み立てが上手だなと思いました。
そして後に晴れの日に会えた時には人生で一番の幸せを感じたことでしょう。
でも結局は雨に降られちゃうんですよね、
しょうがないです、だって雨こそが二人の世界なのだから。
歩き方さえ知らないタカオと歩き方を忘れてしまったユキノの物語なのです。
歩き方を知らないタカオはもどかしさを感じ、歩き方を忘れてしまったユキノはやりきれなさを感じる。
ある意味この作品はタカオがユキノに歩き方を思い出させ、
ユキノがタカオに歩き方を教える作品とも言えるのです。
最後まで観たところでゴールではないんですよね、
二人はようやく歩きはじめただけですので
ようやくスタートしたに過ぎません。
この作品で好きなシーンはタカオがユキノの足に触れるシーンなど色々ありますが
やはり一番好きなシーンは二人がユキノの部屋で幸せを実感してるところから
お互いの気持ちをぶつけるシーンですかね。
ここは泣きました、これまでの二人の歩き方の練習が
このシーンに凝縮されていたような気がしたのです。
タカオが見せた大人っぽさとユキノが見せた子供っぽさが印象的でした。
思っていることを相手にぶつけるというのは一見すると子供じみているのかもしれませんが
本音を言うというのは存外難しいものです、それが相手のことを想っての本音ならなおさらです。
「雷神(なるかみ)の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」
雷が鳴って 雲が広がり 雨が降ってくれたら
帰ろうとしているあなた きっと引き止められるのに
「雷神(なるかみ)の 少し響みて 降らずとも 我は留らむ 妹し留めば」
雷が鳴らなくても 雨が降らなくても
君が引き止めてくれたなら 僕はここにいるよ
本当は二人の間に雨なんて口実は必要なかったんですよね。
会おうと思えばいつでも会えたはずなのにそれを口にすることができなかった…
二人はただただ雨を待つばかりなのです。
なので終盤で二人が晴れの日に会ったというのは感慨深いものがあります。
そしてタカオは最後にこんな言葉を残しています。
「もっと遠くまで歩けるようになったら」彼女に会いに行こう。
それはきっとユキノも同じなのかもしれません。
一人で歩けば遠い距離も二人で歩いていけば半分でいいよね。
この作品の感じ方、受け取り方は人それぞれかもしれませんが
僕は作品のモチーフとは裏腹に視聴後は晴れ晴れとした気持ちになれました。
この二人の未来はきっと晴天なんでしょうね。
大好きな作品です。
【S90点】