退会済のユーザー さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
タイトルなし
本作の主人公は5人います。主人公ヒイロと、その仲間4人――ではなく、主人公が5人だ。
一歩間違えれば誰かがかませ犬になったり、どのキャラも掘り下げ不足になってしまう危険を孕んだこの設定が、結果的にWの面白さを確固たるものとした。
この作品は決して、女性層をターゲットにしたビジュアルだけの作品ではない。そもそも本作は女性層をターゲットにしていたワケではなく、おそらくは美男美女でせめてビジュアルだけでも華やかにしないと、おそろしく陰鬱な作品になってしまいかねなかったに違いない……。
まずヒイロ。彼に関してはもう言うまでもない。カミーユと双璧をなすトンデモ主人公。
「お前を殺す」の発言に始まり、その行動も奇天烈なものばかり。無表情で淡々とした人物かと思いきや、バスターライフルで圧倒的強さを見せつけておいて突如高笑いするわ、高層ビルから生身で飛び降りるわ自分の機体を平気で爆破しようとするわでもう、観ていて退屈しない。
デュオは5人の中でももっとも損な役割をしつつ、戦う目的や、ヒルダというガールフレンド(ここでは女友達という意味で使ってます)との交流もあって、一番応援したくなる愛嬌のあるキャラだったよね。というかコイツがいなかったからガンダムチームはとっくに瓦解していただろう……。
トロワにしても、一見するとヒイロの二番煎じのようでその実ヒイロと違ってWという世界観を5人中もっとも客観視している人物であり(サーカスでのピエロという役割からして名もなき兵士という設定が強調されている)、ある種狂言回しのような役割を果たしている。コロニーから見放された時でさえ冷静に語っていた彼が、戦場とは別の場所で自分の居場所を見つけるというのは、とても意味のある展開だったように思う。
カトル君は前半まで安心して観ていたキャラなのに、あの一件以来すっかり腹黒にしか見えねぇ!
とはいえ潔癖過ぎるキャラが一度間違いを犯し、成長する、というのはやはり面白かった。犯した間違いを乗り越えるさまがちゃんと描かれてたし。
五飛は5人中もっともストイックな人物だ。だからこそ5人の中でもとりわけ多くの悩みに直面してきた。自分は正しい。自分は正義である。そう信じる、信じたいからこそそれを証明するかの如く苛烈に戦い、敗北し、悩み、それでもまた自分が正義なのだとそれが証明されるまで戦いを貫く姿は勇ましい。
このようにメインの5人がそれぞれ全然異なる立場、性格をもち、なおかつ共通の目的を持ちながら独自の動機を持っているというのだから当然一枚岩というワケにはいかない。しかしだからこそ、一人一人が【戦う者】としてきっちり描写された5人が限られた場面だけでもともに戦っていると、それはもう感動的だ。
そして、物語で興味深かったのが、ヒイロとゼクスの対比だった。
当初、ヒイロは自分を強者だと思い、自分の力でコロニーを守れると信じていた。しかし実際は失敗ばかりを繰り返し、敵に利用されたり捕まったりと散々な目に遭い、強大な思惑や世界、戦争を前に、自分は決して強者ではなく、無力であることを理解する。
世界に振り回され、それと同じくらい戦場を見てきたて彼はやがて、最終回で告げたように、人間は皆弱者で自分もただの一人の弱者に過ぎないのだと気付いたのだ。
一方ゼクスは、強者に強い憧れを抱いていた。自分が弱者であることを理解し、護りたいものの為に戦い続けていくうちに彼は、数々の戦いで守りたいものを何一つ守れない自分に苛立つ。そしてエピオンという力をを手に入れてからは、自分の手で世界を変えようと、強者の考えを持つようになっていく。
戦い、戦い、また戦う。戦争の中で沢山の命が呆気なく散っていく。その中に身を置いたヒイロは、命についてこう答える。
命なんて安いものだ、と。
それは、これまでの彼の行動を見れば瞭然だろう。何せ自爆ばかり図る奴なのだから。
自分の命さえ安いものだと言い切ったヒイロだが、しかしその言葉の本当の意味は最終回の最後にあった。
ヒイロは絶体絶命のピンチで
「俺は死なない!」
と叫んだのだ。
命が安いものだと知っていて、それでもヒイロは戦いの果てに生きることを渇望した。
この答えに至るまで、様々な過程があった。中でも秀逸なのが、ゼロ・システム。
無機質に、無感情に戦うだけだったヒイロが戦場での自分に迷い始めた頃に出会ったこのシステムが、ヒイロを劇的に変化させる。
それまで受動的に戦うだけだった彼に、このシステムは取捨選択を迫る。このシステムが搭載されたウイングガンダムゼロを制御し、乗りこなすというのは、ヒイロの成長を視覚的にこれ以上なく上手いこと表現されていたのではないか。
そして、このゼロシステムで選んだ選択というのはその人にとって重要なものであるがゆえに、ヒイロとゼクスがともに述べる思想のぶつかり合いは、説得力があったんだよね。
全体的に地味で泥臭いお話を、ぶっ飛んだキャラと派手なアクションで魅せつけた、ガンダム史上では中々異例な作品。個性の強さは保証できるよ。