yoh123 さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
熱情の奔流と静謐の開戦
三部作の内、最初の二つが黄金時代の前後編とするなら、第三部は暗転と転章といった所だ
うねりは奥行きを伴いやがて螺旋を描き始め、そして急激に一点へと収束する
物語展開だけでなく作品全体の構成すらも其れに近似するように見える
蝕のクライマックスでベートーヴェンの熱情が鳴り始めた時は思わず辺りを見回してしまった
テンペストでも悲愴でもなく熱情の第三楽章であるのは確かに其の通りだと観ながら聞きながら思わず頷いた
第一部は運命と対を成し、第二部は長調として華やかに作られたとしたら、作った奴等は成る程頭がおかしい…
この作品は細部まで血の通った表現が多いが、何かを精選するなら何かを捨てなければならず、それ故に省かれてある箇所も多い
勿論、何から何まで盛り込むなど論外である、はっきり言って原作は纏まりのある作品ではない
ただ解せない事の一つは、主人公が他人に触れられる事を極端に嫌うシーンが省かれた事だ
第一部で抱かれていたキャスカにだけは初めから拒否反応がなかったというのは、この第三部に於いても結構重要な所だと思う
それから、自分にも一つくらいガッツのつけたキズが欲しいという彼女のセリフだけは聞きたかったかなぁ
自分の所為でいつも傷だらけになるガッツに対してキャスカの身の丈一杯の告白だと思うのだが、さて…
尤も、劇中各所で心情独白等は間々抑えられてあり、敢えて描写しないというのは表現してある事とそれ程違いはない
特に、情景が描かれてありながら言葉を描写しないのは、明瞭に描写するより意味があるのは明確だ
そして読み取るかどうかは受け手側に理解の幅と共に留保されてあるというシンプルなやり方でもある
原作に言わせるなら、ヴリタニスの庭園で父を怖れ頷く事しか出来なかったと告白する貴族の娘に対し、母の掛けた言葉の意味が当にそれだ
滝壺の崖で主人公に腕をつかまれ、視界は水飛沫で暈け聴覚は水音に篭り、歯を食いしばる彼を繋がった手を見上げるキャスカのシーンには、心中描写であろうと台詞など有り得ない
蝕に於いて、肩を貸す女千人長の涙を見てジュドーがにっこりと微笑むシーンには、言葉は断じて無粋でしかない
そして闇の翼は何も言わずに陵辱を行い、ただ主人公を見つめるのは原作・本作ともに変わらない
最後のシーンで、骸骨野郎の剣を勝手に奪い取って振るいまくるのだが、原作よりこちらの方がずっと良い
この場合傍観者の骸骨なんぞ完全に眼中にない方がよほど戦をやってる狂戦士の様に合う
湯気上がる身体に白暁を浴び眼を見開いて歯を結ぶ様は開戦の決意を意味しているとしか取れない訳だが、焼け尽くす様な暗い怒りの表情を描かなかったのはこの映画らしいとは言えるかも知れない