くし さんの感想・評価
3.8
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
読めないミステリーが推理好き、クイズ好きにはたまらない!
知らない事実とは… 知らなければ事実という言葉にどれだけ重みがあるのか。無だ。
知らなければそれで事は過ぎ去るのだが、少しでも疑問に感じるとそれを見逃せない性格で探究しなくてはおけないお嬢様「千反田える」。
面倒で浪費としか思えない事には興味が持てない、やらなくていい事はやらない、やらなければならない事は手短に、無気力エコな省エネ男である「折木奉太郎」。
この物語は、好奇心いっぱいで色々な事に首を突っ込む千反田に牽引されて、奉太郎が数々の事件を解明していくミステリックドラマだ。
オープニングはちょっとしたきっかけで奉太郎が謎解きをした事から始まり、細かな短編的謎を解いてしまうエピソードと、大きな難題を巧みに推理し解明する出来事を交互に配分する形で構成される。
また、古典部と言う本来の意味である古い書物を研究する部活動について、そのような事実はこの物語には一度も出てこない。物語の発端が古典部という部活で45年前の古典部の文集「氷菓」から因果する謎で始まり、それがこの物語のタイトルになっている。
話は奉太郎が部活に入る事から始まる。部活動とは言葉のごとく「活動」なのだ。無気力エコである奉太郎が部活に入る事は矛盾に思われるが理由がある。
姉は奉太郎に古典部に入りなさいと、手紙にしたためてきた。姉は古典部が青春だったとある。理由は古典部に部員が居ない為廃部寸前とあり、存続のためという理由だが姉には他意があるのではと感じる。だが奉太郎は独り占め出来る自分だけのプライベートスペースに魅力を感じ入部することに。
そんな古典部で無気力省エネ奉太郎は、生産を好み目的無き日々を好まない千反田と遭遇して葛藤が始まる…。
千反田は疑問にぶつかると「私気になります!」とまるで夢見る子供のような瞳で目を輝かせ、奉太郎に謎解きを求めてくる。奉太郎は自分には無い千反田の輝きにペースを乱されるも魅かれる事になる。
奉太郎は思った。色で言うと千反田は「薔薇色」で、自分は「灰色」だと。
薔薇色とは「厄介と面倒で苦労で無駄骨と分かっていても興味を持ってすればやりがいのある結果が残る」色で、灰色とは「怠惰と惰眠を貪り、面倒な事は保留と逃避と拒絶でのんのんとした安楽を好む」色だという。
奉太郎が部活に在籍し続けるのも、千反田に振り回されて流されても甘んじているのは、灰色が隣の薔薇色に憧れるているのだ。
奉太郎は「隣の芝生は青い、それが羨ましかったからだ」と思った。羨ましさとそれを隠す葛藤が実に面白い。
そんな彼だが、隋一天才と呼べる能力がある。それは素晴しい観察眼と推理力を持ち、いつも冷静に観察して論理的に答えを導き出す。その時の彼の眼差しは鋭く、この時だけが彼の能力が開花する一瞬なのだ。しかし、普段は保留と逃避と拒絶で意欲の無い無気力省エネ男で、相当の変わり者である事は事実。何かを始めたり、行動を起すのって凄く大変でエネルギーがいる事なのに、彼は容易に言葉で片付けてしまう。気にくわないね。まったく。
この男、はっきりいって魅力的に感じないのだが、私だったらやっぱり千反田の様にこの男をひっぱり出すだろう。なんせじれったい、行動しない、この男に私のペースを任せるわけにはいかないのだ。そう考えると、千反田って出来た人間だ。これが意識してわざと演出しているのだったら、彼女が一番の知恵者なのだが、たまに見せる天然ぶりからそれは当たっていないだろう。
そして無気力エコな男が千反田の行動的で探究を求める心に魅かれ、今までの自分を否定する環境へと導かれていくのだ。
今まで自分を見つめ直した事がない奉太郎にとってまさにこれが成長だといえる。
男って好きになった人と共有というか、同調したくなるもんだからね。何だか可愛くて微笑ましい。
こうやって、成長途中の少年少女たちは大人へと一歩一歩変わっていくのだろう。
奉太郎の姉は言った「きっと10年後この毎日の事を惜しまない。」
奉太郎は思った「俺は10年前の俺をどう振り返っているだろう。俺は…。」
この物語は先の読めないミステリーを奉太郎が解明していくところにすっごく面白味を感じる。
あらためて謎の解明に納得せざるを得ない深い内容で、推理好き、クイズ好きにはたまらないアニメだという事には間違いない!
〈考察〉 以下に私なりの考察を書いてみました。
未視聴の人はネタバレが濃いので注意してください。
{netabare}
この物語がなぜ「氷菓」なのか。それはこの物語全体が氷菓で構成されているからだと考察する。
プロローグで解明した氷菓とは「I scream(私は叫ぶ)」と言う意味だ。この物語には見えない裏側の随所に各人の氷菓が隠されている。
そして氷菓(I Scream)は根底に「強くなれ」という戒めがある。
「弱いから悲鳴もあげずに生きたまま生け贄(犠牲)になってしまうぞ!」
悲鳴もあげずに黙っていると時の彼方に流されて行く、歴史的遠近法で古典になって行く。
なんと上手い。古典部に関連ずけて「氷菓」という文集の題名の意味と「古典になって行く」と「古典部」。まったく感慨深い。
5話で氷菓の意味を解明し、千反田の伯父が残した「強くなれ」の戒めに、これから先の千反田に降りかかる「氷菓」に対して、千反田が強くなった事実を垣間見る事もできる。
次はその後の各エピソードに隠された氷菓を紐解いてみることにする。
6話(大罪を犯す)
千反田のクラスで数学の授業の際に未だ習っていない問題に対する生徒達の氷菓。それに対する千反田の先生への氷菓。短いストーリーだがちゃんと氷菓している。
7話(正体見たり)
民宿の善名姉妹、妹の姉が持っている浴衣のあこがれから行動した心の底にある氷菓。この物語後半に共通する「嫉妬」に近い感情がある。
8~11話(愚者のエンドロール)
このストーリーは本作品中盤の目玉となる。各人それぞれに氷菓が隠れているが、大きな氷菓は脚本に対する本郷と奉太郎の氷菓だ。特に奉太郎が強い怒り即ち氷菓を露にしたのは意外だった。そのことを裏付けになった里志や摩耶花、千反田の奉太郎の推理に疑問を感じた姿にも3人の氷菓をうかがえる。
奉太郎は里志に言われた「特別になりたいのかい」と入須先輩に言われた「君は特別だ」。この二人の言葉から奉太郎が自分に自信を持ち初めて自ら進んで謎を解いた。しかしその結果初めてミスをし、入須先輩に利用されたことに気付き氷菓を露にしたのだ。そしてその起因した入須先輩の虚言という氷菓も感慨深い。
また里志が奉太郎に言った言葉「自分には天賦の才は無さそうだ」「羨ましい限りだよ…まったく。」が次話につながる伏線だと言うことも感じる事が出来る。
12~17話(クドリャフカの順番)
後半の氷菓の目玉がこの物語。またドラマチックなミステリーの傑作でもある。
趣旨は「諦めから来る期待」。才能ある人間に対する期待と嫉妬だ。
まず、漫研での摩耶花の漫画に対する熱意からくる氷菓。また、河内先輩と転校していった安城春菜への嫉妬に似た氷菓。これは丁度里志と奉太郎の関係に似せた情景をかもし出している。
同じくして里志の「結論を出せない」データベースに留まる事なく奉太郎のように「特別」になりたい嫉妬にも似た心の氷菓。
田名辺先輩の生徒会長陸山宗芳に対する氷菓。「口で言えなかったから」の一言にそれが物語っている。その生徒会長である陸山宗芳にも安城春菜への想いから沈黙の氷菓がうかがえる。
また次話につながる摩耶花の里志への思いからくる氷菓の一片も触れる事が出来る。
21話(手作りチョコレート事件)
里志と摩耶花の二人の想い。急ぐ想いとゆっくり見付ける答え。二人の口にする言葉と内に秘める想いそれぞれが氷菓している。
摩耶花の発する強い氷菓と里志の沈黙の氷菓が印象的だ。そして里志が結果口にした言葉「あのさ、話があるんだ…」これもきっと氷菓なのだろう。
22話(遠まわりする雛)
名家に生まれてきた千反田のこの地に住む村の重圧。南北の村に調停に入る彼女の責任ある凛とした姿。これはきっと氷菓の意味を解明し学んだ結果でもあるのではないかと推測できる。そして千反田は村の将来を見据えた自分の役割を確信した。奉太郎もゆっくり役割を確信するだろう。
「諦めから来る期待」と「嫉妬」。氷菓から発した「弱いから悲鳴もあげずに犠牲になってしまうぞ」だから「強くなれ」という戒め。人間模様も人それぞれでとても面白い作品でした。しかし奉太郎の姉に一番の才があるのではと思うのだが…実に面白い。
{/netabare}