にゃっき♪ さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
truly madly deeply
エログロと言われていますが、エロなど感じる暇を与えてくれませんし、意味のない残酷描写ではなく、作品にとって必要な表現方法をグロと受け取る方がおられるだけのような気がしますが、色々な意味で確実に人を選ぶ作品なのは間違いないのでしょう。
ディクロニウスは突然変異でヒトが進化を遂げた知的生命体であり、意思の疎通が可能でありながらもヒトにあらざるものです。
一般の野生動物は攻撃を受ければ反撃するか逃走するの二択であり、ディクロニウスも最初から無意味にヒトを殺傷する存在ではなかったはずです。差別や裏切り、迫害を受けた彼女の本能の声は人類という種を絶やす事を彼女に囁きます。愛情に飢えた彼女は単なる殺人者ではなく、人と同じ感情を持っていて対話が可能な、人類を滅ぼす可能性のある孤独な危険生物です。余計な干渉や軋轢がなければ、ヒトの子孫を残すことは叶いませんが、普通に人間社会に溶け込んで暮らしていけたように思えます。
視聴者が、人が殺される描写に過剰反応するのは仕方がないのかもしれませんが、人間同士の殺しあいと、敵対する異種族に一方的に駆除されるのに抵抗する生存本能による殺戮は、もともと別な物と捉えて視聴した方が良いでしょう。
地球に暮らす生命体全体にとって、生活環境を破壊し、DNAの鎖を子孫に残していく使命をもっとも脅かす存在はヒトに他なりません。食卓に並ぶことを前提に家畜が種を絶やさずに繁栄が約束されているのも、害虫や害鳥に分類され絶滅の危険に晒されている種がいることも、ヒトの都合だけに依存しているのが現実です。自らタンパク質を合成する手段を持たない動物は食物連鎖の環のなかに組み込まれた存在に過ぎず、自らの都合でそのバランスを壊せばどんな結果を招くかは火を見るより明らかです。
ヒトだけが特権を与えられ、ヒトを殺傷する可能性のある危険生物は駆除されて当然だと頭から信じこむのは、別の意味で危険な考え方のような気がします。
作画に難はありますが、コミックの分野では「寄生獣」と並ぶ衝撃作が原作であり、エンタとはかけ離れた気軽に視聴できる作品ではないですが、差別問題や自らの存在理由の模索、生きる支えや心の救済、すべてを包み込む愛情などなど、心を揺さぶる刺激に満ちた紛れもない傑作だと思います。