クロッシー(・з・) さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
アニメ界の重鎮の結集作
皆さんご存知のスタジオジブリ宮崎駿監督の最新作「風立ちぬ」でございます。
かれこれ、いろいろアニメを散々見てきましたがここまでうまく表現できたアニメ映画はこの作品くらいしか見たことがありませんというくらいに良かったです。
なんというか雰囲気的にもすごく始めから終わりまですべてにおいて 夢 心 地 だった。というか《夢》と《現実》がかなり危うい感じに描かれていたのがとても印象的であった。
私自身恥ずかしながらこの風立ちぬの作品は初見だったのですが、友人曰く堀辰雄のあの雰囲気も後半になってよく出ていたと言っていました。私自身はこの作品がジブリの作品だと言われなかったら一体どこの誰が作ったんだろうという不思議な感覚に襲われたと思います。絵は完全にジブリでしたけどねwなんというかもののけ姫ほどメッセージ性が強調されていなく、紅の豚ほど趣味西部映画っぽくないなんというか異国情緒でもあるようなでもやっぱり日本の風景そのものというかそんな曖昧な表現がいくつもあった。他にも風景が夜から朝の時とか夕方から夜にかけてとかの描写がかなり多かったと思います。その時の風景は何とも言えないんですよね濃いグレー色の雲というかあの独特の雰囲気を持ち出すいいスパイスでした。
あと対比表現が凄まじく多かった。大きい人小さい人、美しい人醜い人。女性を描くところにもその美しさと醜さは対比でうまく出ていました。二郎の妹なんか醜いの代名詞みたいな感じで描かれていたのが印象的でした。
堀越二郎は飛行機の設計者として名高いのですが、その上この作品を通して如何に薄情ものなのかということを《それとなく》(ここがかなり大事なところです)匂わせているところにポイントがあります。彼は飛行機が大好きで子供の時の《夢》に飛行機を飛ばしてみたりするんですよね。でも壊れてしまう。その繰り返しの中でいかにしてカプローニから飛行機の美しさとはというのを大人の《夢》として現実に投写していくということなんですが、この《夢》の対比もかなり面白かったです。そして描写もトントン拍子で進むので説明が欲しい人にはかなり苦しい展開だったと思いますが、それでもかなり言わんとしていることがわかるような感じが伺えます。
特に震災のシーンなんか印象的でしたけど派手なSEは使っていないところにとても不思議さがありました。人間の声を編集して作ってあると思いますがあのSEはすごいと思います。
他にも描写が地味だったりしますがやはり印象的ですね。震災のシーンは色々とハプニングですがその中でも堀越二郎らしさがかなり出ていました。
{netabare}《結局は彼女ではない彼女を見ていた》里見菜穂子をこの時は彼は見ていなかったんですね。そして彼女が大人になり、絵かきを始めている所あたりからのラブストーリーは堀辰雄の小説の醍醐味が出ていたと私の友人は言いました。そして菜穂子は結核を患わっており、これから醜い姿になるのを覚悟しているのに対しそれでも二郎は「美しい」と言うあの描写はなんというか残酷極まりないセリフである。(しかし芸術家ではないですが少なからず男性でこういう芸術系を目指していた人はこういうことを言ってしまいそうなところが共感できてしまいましたね・・){/netabare}
宮崎駿監督はこの作品を通して自分を描いているのだと思います。実際にドキュメンタリーでも拝見させていただきましたが、なんというか彼の周りのアニメを作る人達も作中に登場してたりするんですよね。なんというか宮崎駿自身の自伝みたいな感じでしょうか。かと言って自伝ではない。宮崎駿が描いた《堀越二郎》というキャラを描いているのだと思います。
かなり難しいとは思います。なにせこの作品説明というかメッセージ性みたいなものは一切排除しているからです。そこに感銘を受けました。何かしら作品を描くときは何かのテーマというかメッセージをそれとなく残してきた宮崎駿監督の中では最もよく表現できていたのではないかと思います。
声優に関しては自分は過去には棒すぎて嫌になる時期がありましたが、庵野氏の堀越二郎のあの何とも言えない薄情さは彼にしか出せない声なのではないかと思います。
他にも素晴らしい声優を起用したと思います。ほかの声優が雰囲気よくうまかった為に《堀越二郎》のあの薄っぺらさがうまく出ていたと思います。宮崎駿が描きたかったアニメは本当にこういうアニメだったんだなと思いました。
久石譲さんのBGMも雰囲気良かったですね。今回はそこまで壮大な感じというわけでもないところがかえってよかったと思います。
最後に流れるひこうき雲についてですが私はこの曲は以前にも何度も聞いていまして荒井由実(松任谷由実またはユーミンまたはyuming)の一番始めアルバムの曲なんですよね。
彼女がまだ高校生の時に自殺した友人のことについて歌った曲なんですが本当に雰囲気がぴったりの曲でした。本当に暗い曲なんですが、歌詞の内容がぴったり当てはまるくらい抽象的な内容でそこまで暗くないポップスというかいうなれば邦楽のカーペンターズというところでしょうか。明るさの中に暗さがあるという感じです。
作られたのは本当に1970年代初期。恐ろしくも昔の日本のポップスはこういう曲も作られていたんですね。素晴らしいと思います。
ちなみにバック演奏の方々は旦那さんの松任谷さんを始めとするティン・パンアレイ(旧キャラメルママ)のメンツもすごいです。メンバーの鈴木茂さん(ギター)と細野晴臣さん(ベース)は当時はっぴぃえんどで有名になりました。細野晴臣さんに至ってはすごい経歴でYMO(イエローマジックオーケストラ)【YMOの代表作は「ライディーン(rydeen)」「君に胸キュン」←君に胸キュンに関してはまりあ†ほりっくのEDでアレンジされています】にも所属しておられたもう言ってしまえば邦楽の神様みたいな人です。
荒井由実時代のアルバムは合計で4枚位ありますが、かの魔女の宅急便にも入っているやさしさに包まれたならは2ndアルバム「MISSLIM」や「ルージュの伝言」は3rdアルバム「COBALT HOUR」に入っています。
こうした意味でも如何に宮崎駿さんがユーミン好きなのかが伺えます。僕自身もユーミンはすごく好きなのでこの曲が主題歌になったときはちょっと驚きでした。
余談が過ぎましたが総評としてはかなり良かったと思いますし今までのジブリ作品の中ではかなり特殊な作品になったことは間違いないと思います。
{netabare}そもそも芸術家は迷惑をかけっぱなしなのであるということも同時に「生きねば。」という中に入ってくるニュアンスだと思います。それを強調する残酷なメッセージとしてカプローニの最期の言葉「君はピラミッドがない世界を選ぶのか?」という問いかけに「ピラミッドがある世界がいい」と答えた背景には過酷な労働者がいても美しい世界があればそれでいいのだというある種の堀越二郎らしさが改めてわかる台詞だったと思います。(最後の菜穂子が美しく消えるのも薄情ものの二郎らしいです){/netabare}
彼(堀越二郎もとい宮崎駿さん)の生き様にかなりイラついている人も大多数いるとは思いますが、それでも芸術家というのはこういう生き様なんだということを再確認させられた作品でありました。