plm さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
楽しかったに決まってるじゃねえか。解りきったことを訊いてくるな
180分弱の劇場版ハルヒ。某五億年ボタンのような思考実験的な物語の出だしは大好物だった。
この"消失"では、ハルヒシリーズにおける主人公・キョンの決定的な変化が描かれていると思う。
◆そもそもハルヒってどんな作品か?
今となっては「またこれ系かよーwww」なんて言われてしまうような流行要素を多分に輩出した
ラノベ筆頭作品といえるだろうか。"やれやれ系主人公"、"日常における非日常"などが最たる例。
ではそれらのキャラクター性や物語が生み出された原点は何なのだろうか、というと
何の刺激もない日常に嫌気が差して「こんなことが起きたら面白いのに」「何か面白いことが起きないかな」
と、変化を待ちわびてる学生等に共感を与えたい、というのが根元にあるのではないかと推測した。
「自分は当事者にならず傍観者でありたい」「世の中はつまらないものだと思う」
キョンやハルヒの言行からは随所にこういった心情が読み取れる。
ちょうど高校生あたりか、特に問題もなくスルスルといけてしまった人ほど考える事柄ではないだろうか。
そんな風に"涼宮ハルヒの憂鬱"という作品は、若者が抱える空虚感というテーマで文学的にも通じつつ
尖ったキャラ性を味に、ラノベ(若年層向け)であることを意識されて書かれていると思う。
禁書が空想的中二病だとするとハルヒは現実的中二病(いわゆる高二病?)に近い感覚なのではないか。
◆傍観者からの脱却
さて、以上で考えたテーマが作者が意図したものと正しかったかどうかはわからないが、
"消失"では、これらに対して今まで傍観者であったキョンの変化・選択・決意が描かれている。
「自分は当事者にならず傍観者でありたい」
こういった高二病(モラトリアム期間的思考)への、作品から提示された回答の一つではないかと思う。
自分の場合、「世の中はつまらないものだと思う」という考え方に対して、
「世の中がつまらないのでなく、世の中を楽しくできない自分がつまらない存在なんだ」
と、考えることにしている。
傍観主義にもいえることで「自分から動くのは嫌で傷つきたくないけど、面白いことが起こってほしい」
とは「与えられることを待っているだけ」の受け身主義、いうなれば餌を待っている雛鳥のようなのだ。
ピーピーと喚くだけの雛鳥を見ているよりも、愚直にも餌を狩りに行く親鳥を眺めている方が冒険がある。
自ら動いて勝ち取る変化、人としても物語としてもそういうものを見ている方がきっと面白いだろう。
だからキョンの行動は、どうであれポジティブで良いものに思えた。
◆長門の感情
"消失"と言えばもう一つ、長門の感情についてが重要な因子になっているように思えるが、
キョンについては選択や決意が明確に描かれているが、長門に関してはそうでもないと感じた。
……個人的には、そもそも長門を一個人として捉えるには抵抗がある。
情報統合思念体というのだから、並列意識を持ったうちの一端、タチコマの一機みたいなものっしょう。
その上、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースなのだから、実体は別物なわけで。
見た目こそあれだから感情移入できるものの、外見が違ったら無理じゃないのというのが実際のところ。
そういう感覚もあって、長門が感情に沿って行動を起こしたという方向性では素直に感動はできなかった。
キョンはそんなのお構いなしに、SOS団の仲間として大切に思っているというのは分かるけれど、
やっぱり長門は機械的にエラーに対処しただけなんじゃないかなー、と。
感情寄りに見えるけれど、どちらにも解釈できる作りになっているので、そこらへんも上手いと思う。
◆純粋にエンターテイメントとして
事件の始まりから、冒頭に書いたように思考実験的なお話で、思わず怖えー!と呟いてしまう面白さ。
そして希望を得て活路を見出すシーンは演出の後押しも素晴らしくグッとくる。
かくれんぼメソッドとでもいうのか、自分が属する日常との隔絶と再会、再認識できる、いいものだね。
肯定的なコメントばかりつけている気がするけど、物語のギミックでの巧さはそれほど感じなかったかも。
伏線回収わりと適当だし、最後の方はハチャメチャ展開だったな。
まぁ上記のテーマに阻まれさえしなければ、誰しも補って余りあるほど充足感を得られる内容だと思う。