笑い男アオイ さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
これ程練り込まれた作品とクオリティのアニメは見たことない
攻殻機動隊はもう一種の宗教に成ってるとも言えるほどアニメ好きの人々を魅了する作品です。
原作の攻殻機動隊はもう少し軽い感じの話のノリでありながら、サイバーパンクとしては逆にかなり深いところまで話が及んでいるので好きな人にも中々全てを理解しにくい作品になっていると思います。
原作の設定の作り込みは半端無く、漫画的な表現でも視点が躍動感あふれていたりコマ割り等が秀逸だったりとマニア心を擽るようになっています。有名な話ではマトリックスなどの監督にも影響を与えた作品であり特に先に公開されている映画などは海外での評価が極めて高く日本を代表する作品であると言えるのではないでしょうか。
しかし、私個人の理解力では映画で押井守さんが手掛けられた作品は映像的には流石に映画と言える表現の仕方や、音楽も作品全体を表すように不思議な近未来の空間を作り上げていてとても素晴らしいものになっています『が・・・』一言で言ってしまえば『分かりにくい』です。特にSFに興味のない人にとっては理解するだけで疲れてしまうと思います。これは、好きな人には好きな作品と言わしめる大きな理由だと思います。
TVシリーズのアニメというものは映画作品と違い、ある程度視聴する人の幅が広く受け入れる窓口も広いものであるのでどの程度まで一般人に分かるように作れるか?という、作品の根本的な深さを表現するのと相反して一般に分かり易く表現しなければならないという課題を解決しなくてはいけないと思います。
このアニメ化にあたって神山健治監督が指揮をとりアニメと言う枠の中でどう表現すれば攻殻機動隊というアニメーションをより多くの人に楽しんでもらえるか徹底的に練り上げられた作品であると私は感じました。私の持論では物語の面白くない作品からは傑作は絶対に現れないのです。
原作の公安9課に関する話は実際は殆ど出てこなく、どちらかと言えば精神面の話に主題を置いて構成されていますが、TVのアニメショーンとしてそのままやってしまうと映画と違い間延びすることは避けられないでしょう。
今回、多くのレビュアーさんが上げているように1話完結の話を元に全26話を通して全体のテーマを構成で来ているところが飽きさせずに多くのファンを獲得できた一つの要因じゃないかと思います。
アメリカ映画のように勧善懲悪ではなく、そこに関わる人間や精神の発達した機械迄が織りなすドラマが私たちにこの作品を見たときに与える印象は心のどこかに引っかかる哲学的なテーマを含み独特の余韻を与えてくれます。
話が進むにつれて、公安9課の仲間の人間臭さが描かれていくようになり単なる事件を解決していくだけの作品ではなくなりイシカワやサイトウなどどう見てもオッサンです。普通憧れたりしない外見ですが非常にカッコよく見えてくるんです。
バトーさんの義眼はゴーグルのようであり目線の動きがありませんがだんだんその目線が分かってくるようになってきます。それは、彼の心の葛藤などが視聴者でもある私達にも伝わってきているからなのだと思います。
機械のタチコマの声は一人の声優さんが声色を変えずにあえて同じ声色で人格の違いを表現しています。これには感服いたしました。声を変えるのも勿論大変なことだと思いますが、情報の共有化といった過程を繰り返すうちに逆に各々が個性を持ち始めるのに声質は同じなんだけれどもハッキリと個性をこちらが認識できるようになってきます。これは逆に本当にすごいことなんだと思います。
作品全体を通して『笑い男事件』を追っていくうちに社会に孕む黒い部分が色々と浮き彫りになっていき、公安9課自体の存続をかけて戦う終盤は手に汗握る攻防の数々になってきます。
SFとして多くのギミックが表現として出てきますが、それはそんな難しいことではありません。詳しいことが知りたければ今の世の中インターネットで簡単に検索出来てしまいますので検索しながら見るのもいいかもしれません。そんな難しく考えなくても前に書いたように窓口を広く作ってあるので見ているうちにだいたい理解出来てきます。
これは、SFという枠を使ってもっと広い哲学のようなものを描いた作品です。テーマが難しいので万人向けではないかも知れませんけど、この作品なら万人に向けていい作品だよと紹介しても問題ない作品であるとも思います。少し大人な世界観が理解できるようになる年齢になったら子供にも勧めてみたくなる作品だと思います。