にゃんた さんの感想・評価
3.1
物語 : 2.5
作画 : 4.5
声優 : 1.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
絞り
原作既読
原作文庫本の巻末の解説を、このアニメ映画の脚本を担当した大河内一楼氏が執筆している。
氏は、
「この作品は密度がありすぎる・・・この原作一つで、七本は映画が作れる」
と述べ、
・二つの八犬伝の関係性についての「ミステリ」
・伏の悲劇的出自などに関する「怪異小説」
・浜路と信乃の「ラブロマンス」
・浜路と道節の「アクション」
・浜路という「少女の成長物語」
等の複数のおもしろさがある、と分析している。
そのうえで、
「100分前後の映画にまとめるのは難しい」
と書いている。
それゆえに本映画は、それら要素のうち、ラブロマンスに絞って作品を仕上たのだろう。
しかし、絞りすぎだと思うのである。
個人的には、「浜路と信乃のラブロマンス」をメインにしつつも、「伏の悲劇的出自に関する怪異小説」要素を絡めて悲劇的恋愛物語に仕上て欲しかった。
以下詳細(原作のネタバレを含みますのでご注意下さい)
{netabare}
原作をラブロマンスに書き換えて表現したこと自体に不満は無い。
原作では優れた嗅覚を持つ猟師として描かれていたヒロインを、一転して女の子らしく描いたり、
「偶然ぶつかって・・・」等の恋愛のテンプレ表現を取り入れたりしたことも悪くない。
また、浜路と信乃の関係について「猟師と獲物」という明確な力関係を無くして対等な立ち位置に変えることで、
互いに惹かれあいながらも、その気持ちを行動に移せない葛藤が強調されたし、
原作には無い、兄道節と船虫の人間同士の恋愛関係を書き加えて、
上記二人の関係と対比的に描くアイデアも素晴らしい。
しかし、二人の関係で最も特徴的なのは、二人が異種族であることだ。
敵対関係にある異種族間の恋愛である以上、やはり悲劇的恋愛関係であることをもっと強調すべきだったように思う。
そして、そのような困難な関係であることを描くならば、
当然「伏」という種族の始まりのエピソードとその種族の特性(寿命など)に
もっとフォーカスしなければならなかったはず。
原作では作品全体のページ数の約30%を割いて、伏姫の物語(贋作・里見八犬伝)が描かれている。
そこでは、伏姫と犬とのエピソードが激しさと哀しさを交えて描かれ、
さらにそこで始まった因果が、浜路と信乃が出会う前に
既に終わってしまったことが明確に、しかも信乃の口から語られている。
これは、浜路と信乃が結ばれることが無いという哀しい結論を象徴するものとして非常に有用なエピソードであり、物語全体の核となる要素だと思うのだが、
本作品ではわずか3%前後の時間しか割いておらず、因果の終焉を示す明確なエピソードも無い。
氏も原作を、浜路の物語+伏姫の物語の「二重構造の物語」と認識しているのだから、
たとえラブロマンスに書き換えたとしても、原作の特徴である「二重構造」を維持し、
活用すべきだったと、個人的には思う。
伏姫の激しく哀しいエピソードの描写を簡略化してしまった本作品のラブロマンスは、
私には単層構造にしか感じられなかった。{/netabare}