ハト さんの感想・評価
4.2
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
きめ細かな演出が光る。さわやかな感動を貰えるアニメ。
大人にはまだなりきれていないが、もう子供ではないと自覚している高校3年生。憧れや夢を抱き、様々な悩みを抱きながらも音楽が持つ力によって前へと進み成長していく青春群像劇。
学園青春モノといえばありきたりな設定だと思われますが、TARI TARIの場合はとにかく真面目に、ありのままのリアルな学生の青春を描いているのが特徴です。まだ成長しきれていない"学生の青さ・無力さ"を描きつつ、それらを様々な人によって支えられているという部分をしっかり描いています。アニメだからといってそういった各キャラクターの立ち位置をデフォルメせずリアルに描いているのがこの作品の特徴であり素晴らしい部分だと思います。また、音楽がテーマだけあり所々あるミュージカル的な演出が、面白い特徴になっています。
様々な場面を彩る音楽は、さすが音楽をテーマにしている作品だけあって、劇中歌やBGMの出来が良く、自然と口ずさんでしまうほど印象に残ります。またそれらを歌うキャスト陣も非常に上手く、地声に近い声質の演者で構成されているので歌う時と演じている時の声が近く、キャラクターが歌っていると思えます。この辺はキャスト決めの際、歌唱テストがあったりと作り手のこだわりを見て取れました。
登場する各キャラクターは上記したように、アニメ的デフォルメはあまり無く、ありのままの人間として描かれています。子供達なら子供らしい悩みや思考を持っており、大人達は大人の立場としての悩みや思考を持っています。アニメ作品ということではありますが、キャラクターというよりは人物として感じることができます。
メインの5人は全員主人公であり、各キャラクターの役どころもバランスが良くコメディーやシリアス、といった様々な展開でもそれぞれの特徴が出ていてとても良いと思います。
テンプレ的なキャラ。いわゆる○○キャラや○○風な性格のようにレッテルを張ったようなキャラクター設定ではなく、しっかりとストーリーにより説得されることでキャラクターのアイデンティティーを確立されているのも素晴らしいと思います。
ストーリー構成は群像劇ということで、音楽をやめた和奏と、同じく解決できていない音楽による過去を持つ教頭先生の成長を全体で語りつつ、各キャラクターの話を主に2話構成で進めていきます。複線の入れ方や話の展開の仕方は非常に丁寧で、じっくりと作品の世界に入っていけます。
特に心情表現の演出は素晴らしく、長々とセリフで喋り捲る作品が多い中、表情や情景、少ないセリフや仕草のアニメーションなど絵で魅せてくれます。
またそれぞれの悩み・絶対的壁を前にして、安直に音楽や他の4人の絆の力で都合よく解決をさせるのではなく、本人の周りにいる人、家族などとの交流など様々なことを経験し、自分自身によって解決を導き出し、メインメンバーがあまり介入しないも良かったと思います。悩んでいるものが各キャラクターのパーソナルな部分だけあり、"他人が踏み込めない問題"という線引きはしっかりされていると感じがしました。しかしその中でも仲間の存在や音楽の力というものは悩んでいる本人にとても大きな力になっており、無くてはならない物として上手く彩りを与えています。
なお、仲間という部分にフィーチャーされますが、青春物では良く見られる恋愛要素は、淡く薄っすらと入れられているだけで、見ていて気持ちいい具合に上手く抑えられているのもこの作品にはマッチしていると思います。
終盤の展開。詳しくは書きませんが、やりたいと思っていたことが唐突にできなくなってしまうのですが、この展開は正直賛否別れるところではあります。他の人間味あふれるキャラクターと違い、まさに悪役というだけのキャラクターが登場します。終盤の展開だけに非常に違和感を感じますが、これは"子供として抗うことができない壁の存在"と思えば合点がいきました。どんなに理不尽だと思ったことでも、それは淡々と抗えることなく進んでいってしまう。でもそういった時でも自分のやりたいこと、また精一杯できることをやろうという部分は心が動かされ非常に感動しました。
1クール13話ではありましたが、きちんと構成され、きめ細かな演出、上手くまとめられたお話だったと思います。青春群像劇なので各キャラクターも皆キャラが立っており、観ていて楽しく、さわやかな感動をもらえる優れた作品でした。