鷺ノ宮朔太郎 さんの感想・評価
4.5
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
アニメ表現とは、かくも多様な可能性を持っていたのか。
まどマギが世界に衝撃を与えていたあの年の下半期、ほそぼそと2クールやっていた神作品です。
メルヘンチックなファンタジーの皮を被った、痛烈な現代現実批評作ですね。
ウテナの幾原監督が紡ぎ出す傑作です。
ネタバレはせずに、感想の要点を纏めます。
世界観、設定上の事件、組織、キーワード、そういう様々な記号が、現実の九十年代の出来事、例えばオウム地下鉄サリン事件や、酒鬼薔薇聖斗の「透明な存在」などを連想させます。主人公たちは、九十年代に幼少期を過ごし、そして成長した高校生。90年代から00年代、人間、特に少年たちが直面しているグロテスクな社会構造を、芸術的なメタファーで描きだしています。
芸術性、この作品の強みはそれです。
セリフのレトリックだけじゃない。描写も、ピクトグラムや模式表現によって、視聴者の想像力をかきたてる作りなどが多用され、非常に見ていて興味深い。
ペンギンが可愛く、音楽も素晴らしい。やくしまるえつこのOPと、トリプルHの挿入歌「灰色の水曜日」が、私は大好きでした。
家族とは何か、誰かを愛するとはどういうことか、愛とはそもそも何なのか、罪はいかにして償われるのか、罪は誰がどのように背負うべきものなのか、今、本当に自分は自分として存在しているのか。
社会の微妙な問題に、芸術性という盾と暗喩という矛をもって切り込む。
何度も見直したい、社会派の名作です。
私も、またそろそろ見直したいなぁ。
幾原監督が直々に筆を執った小説版(多作家と共著)があります。特に視覚映像的な情報に技巧を凝らすアニメに対して、言語的なレトリックに技巧を凝らした小説です。とても良かったので、おすすめです。