「惡の華(TVアニメ動画)」

総合得点
65.0
感想・評価
1146
棚に入れた
4510
ランキング
3539
★★★★☆ 3.2 (1146)
物語
3.4
作画
3.0
声優
3.3
音楽
3.4
キャラ
3.2

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ネタバレ

くろゆき* さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.6
物語 : 5.0 作画 : 1.0 声優 : 1.0 音楽 : 1.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

…やっと、吐き出したね、でも、おまえの中身は蝿よりただれてるよ

純文学的なアプローチというのか、ロトスコープという手法や極端に長い間の取りかた等、アニメやドラマのお約束を排した表現をしようとしている作品。
各種デザインや不気味なEDも大時代な雰囲気で純文学っぽさを表現していて、本棚にしまいこんだ本の古びた紙とインクの匂いがするような作品です。
ただし、観客には激しくストレスを感じさせ、娯楽要素はまったくありません。

作者は手間のかかるロトスコープや、朝焼けのシーンの背景に見られる芸術的な表現といった、
作画に関してなみなみならぬ意欲をもって製作にあたっていたことが見て取れます。
正直アニメに分類してよいのかと思える作品ですが、この手法によって作品で語られることがアニメの絵空事ではなく、
かといってドラマの作り物臭さもない奇妙なリアリティを身にまとっています。
また観る側にとってもアニメともドラマとも違う、お約束の観方が通用しないものになっていました。

思春期特有のモヤモヤや鬱屈した感情、自分は特別だと思いたい欲求とそれを裏付ける力も経験も知識も無い不安定さ。
そんな時期に急激に膨張する性的な衝動は、真面目な少年ほどそれを罪悪視しがちで、知識も経験もない彼らはそれを持て余してしまいます。
春日君はそこを仲村さんに衝かれてしまい、自分の身に生じた、自分だけの世界では解決できない問題に直面することになります。
仲村さんは自分だけでは満たせない欲求を春日君に抱きついて満たそうとしているだけで、彼女が言うことは出鱈目な決めつけでしかないのですが、
春日君にはそれを撥ねつけられるほどの論理がなくて、自分はそうなのかと思ってしまい、閉塞的な状況にどんどん追い込まれていってしまいます。

この作品は閉塞感に覆われています。
錆だらけの風景は観ている者に、街が衰退に任せるがままの不安と、それを打開する手立てが見つからない閉塞感を感じさせますが、
それはそのまま春日君の感じている閉塞感そのものです。
この作品の観客は春日君よりもずっと年上になるでしょうが、思いどおりに動いてくれない春日君を見て、
彼を救う方法を知っていることがかえって余計に閉塞感を感じさせる原因になり、半端ではないストレスを募らせることになるでしょう。

と、こういったあたりが語られる作品なわけですが、この作品にとって幸運なのか不幸なのか、
それよりもずっと、否応なく関心をもたれてしまうのが「ロトスコープ」をはじめとした映像や演出でしょう。
ロトスコープというものは実写から情報の一部を切り出したものですが、さらにこの作品では作画の手間とスケジュールの両立という事情のために、
実写や通常のアニメにくらべて情報量が大幅に削ぎ落とされています。
そのためアニメとして「笑った」「走った」というレベルの描写はできても、繊細な表現はほとんどできていませんでした。
これは若い役者の拙い演技をカヴァーする効用はあったと思いますが、
ほとんどの繊細な表現はカメラに写る役者の姿ではなく、声優の演技に頼っているものでした。

そういう手法を制作者がどういう狙いをもって採用したのかいまひとつ判然としないものがありましたが、無理矢理にでもその意図を忖度してみると、
大幅に情報が削ぎ落とされているために、観客は情報を脳内で補完することによって再び回復させることを強いられます。
そうしてその部分がリアリティを感じさせることを狙ったものなのかなと思います。
また別の面では情報の大幅な欠如は、キャラの表情から何を考えているのかを読み取りにくくするので、
これはその能力自体が未熟な思春期のとまどいを、観客に共有させることも目的にあるのかなとも思いました。

もっともそうだとするとこれは両刃の剣で、肝心の春日君の仲村さんに対するこだわりはこのために共有できませんでしたが。
モニター越しで観ている状況では、演じた役者さんには悪いんですが、仲村さんは超がつく美少女であってくれないと春日君と同じ思いにはなれないです、
嫌悪感の方がどうしても強くなって、「仲村さんと一緒に堕ちてもいいか」という気持ちにはなれません。
結局のところ、作品を観るかぎりこの手法は洗練がまだまだ全然足りていないと感じるものでした。

構成についても、最終話では後半が2部の予告編のようになっていたのは首を傾げるものがありました。
そこに垣間見えた映像からは、春日君はさらに堕ちてゆくらしいことが見て取れ、内容もかなりドラマチックな展開がありそうなのですが、
こうなると今まで観てきた1部の意義がよく判らなくなります。
予告映像からは春日君が犯罪めいたものまで関わるように、エスカレートしてしまうらしいことがうかがえ、
普通の少年の行動範囲に収まっていた印象の1部とはかなり事情が違っているように見えます。
ここまでは多少の暴走はあっても「当人にとっては大問題、でも成長がいずれそれを解決する」という少年の身辺世界限定の物語だったのが、
そこから乖離するらしいこの展開は物語としては大幅な変質です。

思春期の物語としては、春日君が中村さんの思いという「他者の思いの存在」に気付いた、精神の成長を描いた時点で、
綺麗に纏めることができたはずで、それをなげうってまでこの変質したものを予告編という形で唐突に突きつけてきたのでは、
作者がこの物語で何を見せたかったのか意図が見えにくくなりますし、また今期のうちに描いておくべきだった込み入った物語、
2部に向けての布石を置くことを、ブン投げてしまったようにも見えてしまいました。

特徴的な非常識なほどの長い間は、その間に春日君が何を思い、どういう気持ちなのか想像するのに充分な時間を与えてくれましたし、
ロトスコープで情報量を抑制して観客に脳内補完を要求したこと等々、
観客に対して作品に受身ではなく自らアプローチすることをいろいろと促していた作品だと思います。
それは非常に野心的で意義のあることですが、反面洗練度の低さや終盤の構成への疑問など、いろいろ課題も残った作品だと思います。

投稿 : 2020/07/10
閲覧 : 315
サンキュー:

3

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