雷撃隊 さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
特車2課、公安9課そして捜査1係
監督は「踊る大走査線」の本広克行氏。脚本はあの「まどか」の虚淵玄氏。制作はIGの押井派閥の連中がぞろり。これは強力な布陣だ。本広監督は自作を押井守作品のコピーだと公言していたので作風は「パトレイバー」「攻殻機動隊」の後継者だ。ただの劣化コピーやパクリではなく良質のリスペクトに仕上がっていて単独でも十分面白い。殺伐とした未来を舞台に泥臭い刑事ドラマが展開される。リドリー・スコット監督の「ブレード・ランナー」って映画の日本版といえば解る人も多いのでは。人の精神状態を数値化して全てを数字で判断する息苦しいことこの上ない社会で正義と組織論がぶつかり合う展開は現代社会に対する警告であり、良くない方向の未来予測であり、ぞっとする。シビュラシステムなる都市管理コンピューターに人間の精神や判断基準が支配されており、まさに巨大な牢獄だが、悩む必要のない楽園でもある未来の東京で刑事と政治犯、テロリストが激突する。主人公の刑事も癖のあるやつらで、「潜在犯」と呼ばれる犯罪者予備軍で性格破綻者扱いの問題集団で執行官と呼称される。しかし、劇中では破綻者扱いの彼等はシステムに束縛されない「目と耳」をもっており、むしろ現代の我々に近い人格をしているのが面白い。だが裏を返せばひたすら妄信的、機械的に働く人間以外は犯罪者扱いされるわけでキューブリックの「時計仕掛けのオレンジ」みたいな息苦しさであんな未来はごめんである。
好きなキャラについて
久々に男性陣がカッコイイアニメだ。最近は女の子しかメインビジュアルになれない作品が多いが、主人公の咬噛慎也をはじめ宜野座伸元たちヤロー共オンパレード。男の世界満喫できる。犯人でありもう一方の主人公の槙島聖護もこれまた素敵な知能犯で哲学的思想犯であり最悪の政治犯でもあり魅力的だ。善悪双方カッコイイ。咬噛VS槙島の宿命のライバル同士の対決は神聖さすら漂う。男の世界だね。案内役の常守朱の成長も希望が持てる。花澤香奈さんの新たな境地だね。
シビュラシステムの端末である喋る銃のドミネーターは「まどか」の後だったのでひょっとしてこいつポストQBなのでは?と思ったらあたりでした。終盤に世界の真実を唯一人知ってしまう朱は「まどか」の暁ほむらを連想させた。本作の言葉を借りるとQBはマックス・ウェーバーが定義する理想的な官僚だそうだ。
宜野座の物語は昭和のドラマなら壁にぶちあたった刑事の成長物語になるのに本作では転落劇なのが皮肉だ。せっかく人間としても刑事としても大きく成長したのに降格処分なのがいかにも現代的な社会風刺で痛々しい。そして朱の次の戦いは始まったばかりだ。想像の余地を残したまま終わって欲しいような続編が見たいような、悩む。
そろそろDVDも出揃うので多くの人が見られる環境が整うので、これからの評価が楽しみだ。最大の弊害はこれを見ると普通の刑事ドラマや2時間枠サスペンスが物足りなくなってしまう。興味を持った人はパトレイバー、攻殻機動隊と併せて見て欲しい。捜査1係は特車2課と公安9課という「偉大な先輩達」に並ぶ日が来るだろうか?