らしたー さんの感想・評価
3.2
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 2.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
すごく評価が難しい作品の一つ。
なんだろう、このぼやぼやっとした感じ。
これを観て単純に「自殺イクナイ」を訴える映画だとはさすがに受け取りたくありませんでしたが(仮にそうだとしたらあまりにも乱暴)、かといって家族愛や友情という観点だと、ひどく取ってつけた感が…。
あくまで一本のエンターテインメントとして見れば、その完成度に一定以上のしかるべき評価がされてよい良作だとは思っています。
●しかし、これは…どうなの?
{netabare}
これ、突き詰めていくと、絶対に起きない奇蹟をトリガーにして、あらゆることが勝手にうまくいき始めました、というたいへんに生ぬるい体裁をとっているわけです。友人関係にしても家族関係にしても。それこそ「宝くじで人生変わりました!」みたいな、ある種のどうしようもなさが、どこまでも色濃くつきまとうんです。
確実に伝わったことは、弱くて醜くて卑怯な人間に向けた優しい眼差しでしょうか。本作では真の母親と女生徒の桑原がそんな負の側面を象徴的に引き受けるキャラ配置になっていますが、どんなに醜く汚れていても、けしてそれを否定しない作品態度は、唯一の収穫と言ってよいでしょう。みんなそうなんだよ、と。
桑原のあのシーンなどは、この作品の白眉です。
で、まさにそこから「カラフルであること」の讃歌につながってくるわけですが…。
少なくとも、それと「自殺」というトピックは、直接は関係ないよね。
自殺ってのは、もっと深い日常の絶望感・閉塞感に根ざしたものあって、ある日突然すべてに疲れてしまって判断力を失ってしまうところから命を絶つに至る、というものでしょう。基本的には。
この作品はその「きっかけ部分」しか描いていません。
世間の医者だってまず、相手の話をよく聞いた上で、自暴自棄になる気持ちをコントロールする処方をするわけです。周囲の人間の協力も借りて。いきなり「人間、弱くてもいいんだよ。カラフルなんだよ」とか諭し出す医者は皆無でしょう。どんなヤブだよって話です。
「カラフル万歳」で解決したら誰も苦労しないんですよ。
それを承知の上での娯楽作品であれば、これ以上語ることはありません。確実に及第点でしょう。
しかし、もし、もしですよ。この作品が少年少女の「自殺」について本気で何かしらどうこうしたかったとのだとしたら、ホップもステップもなしにいきなりジャンプしちゃったよコイツ、みたいな、えらく軽はずみな印象を持たざるを得ないのです(でも、アンジェラ・アキのあれを挟んでくるあたり、やっぱそうなんだろうな…)。
よく芸能人や文化人が「うまくいかなくてもいいんだよ。人生は長いんだよ。もっと楽しい世界がたくさんあるんだよ?」などとエールを送ったりしますが、まさにあれ系のメッセージを目にした時と同じで、なんだかずるい気分になってしまうのです。
どこまでも漠然とした大人視点からのエール。
スタンドからの無責任な声援。
「今そこにある切迫した死」に対して人生論を説く虚しさ。
もちろんそういったメディア的なコンタクトをはかること自体は、たいへん素晴らしいことと思っています。というか、この作品も、あくまでそのレベルにおいてのみ、一定のメッセージを表現し得たと言ってよいでしょう。
本来ならば、そのエールが簡単には届かない、てとこがスタートラインな気がしますけれども。
{/netabare}
●家族の絆に絞ったらいかが?
{netabare}
ふと思い出したけど、ものすごい回数の食卓シーンが描かれていたことから察するに、やっぱ「家族」てのもかなりの比重を占めるテーマだったのだろうか。
むしろそっちがメインディッシュ?
であれば、いっこ提案。
もうこの際、自殺という設定はやめませんか。
学校帰りに母親のあれや桑原のそれを目撃してしまい、ショックでぼんやり歩いてるところを車に轢かれたことにしましょうよ。で、奇跡的に一命はとりとめたけど記憶がなくなった。轢かれる直前に見た光景だけは時々フラッシュバックするって感じで。そこからの家族の絆の物語。
{/netabare}
もうそれでいいじゃない。ダメですか。
そのほうがまだまとまりがあっていいですよ。
それで十分やりたいことは描けるでしょう。
「カラフル」讃歌だって十分描けます。
…ここまで感想を進めたときに、ふと、
「あのオチをやりたいがために自殺というトピックが必要だった」
という残念な推測も生まれてくるのですが、もしそうだとしたら甚だ思慮を欠いた浅はかな物語と言わざるを得ませんねえ。受け手にある程度の素直さというか、一定以上のナイーブさがないと、楽しめない作品かもしれません。
繰り返しますが娯楽作品としてはけして悪くはなかったです。