らしたー さんの感想・評価
3.8
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
本作最大の「ファインプレー」とは
また能登か!てのは置いといて。
この作品、よくある女子部物アニメの体裁をとりつつも、その根底に、大正デモクラシーという社会的潮流に則った形での「女性の自己決定権」という、とんでもない地雷を抱え込んだ要注意アニメである。
そもそも、野球部(厳密には同好会)結成の動機からして、
「女は家庭に入れ」と言われ、カッとなってやった。反省はしていない。
というものである。
「ジェンダーフリー」という言い方だと様々な方面の誤解反発を生むからあれだけども、要は「女性はこうあるべき」に対する「なによそれ!」こそがすべての始まり。物語のきっかけ。
…やばいやばい。これを危険牌を言わずになんとする。
地雷と呼ばずに何と呼ぶ。
こいつらべつに野球が好きで部を作るわけじゃないんである。
女性の自己決定権の発露として、野球を選択しただけなんである。
きっかけはただの「あてつけ」なんである。
さらにこいつら、野球のルールなんか1ミリたりとも知らないんである。
嫌な予感しかしない。
しかしここで、本作最大のファインプレーが発動する。
しれっと普通の「女子部もの」を展開してきたのだ。
しかも真正面から「野球」を描きやがったのである。
あろうことか「スポ根」まで混ぜてきて…。
「ジェンダーフリー」「女性の自己決定権」ぜんぶわきに捨てやがったのである…!
この判断こそが秀逸。
本作最大のファインプレー。ここで勝敗は決まりました。
結論から言うと、これかなり面白い。
これに対して、女性の自己決定権の主張が描けてない、などと的はずれな批判をする人はさすがにいないだろう。
見て幸せになれるキャッキャウフフと、野球というスポーツに次第に魅せられていく少女たちの青春の風景を、何よりも優先した、この冷静な判断力。藪をつつかない徹底した態度。いやはや、わかってらしゃる。その藪は「つついても面白くならない藪」なんだよね。
●野球アニメとしての出来のよさ。すぐれたバランス感覚
目標設定の丁度よさとか、技術・体力・根性のいずれも偏重しないところもそうなんだけれど、全般にわたって作者の非常に優れたバランス感覚がうかがえる。
それにくわえて、集団スポーツを描く上でのツボもことごとく押さえてやがって、各キャラの見せ場のつくり方もベタなんだけどよくできてる(個人的には主人公のポジションを捕手にするあたりにセンスを感じる)。
経験者からすると、野球ってそんなトントン拍子に上達しねーよ、ていうのもたしかにあるんだけれど、それは『メジャー』の小学生編とかも一緒だからなあ。ある程度目をつぶってあげてほしいところ。
とはいえ、野球レベルが徐々にあがっていく様子がたいへん丁寧に描写されているため、悪印象がまったくない。時にはスコア差で明示的に語らせ、時にはアニメーションの利点を活かして、バットスイングやスローイングの変遷でさりげなく見せたりなど、工夫の跡がよく見て取れる。地味にベースカバーしてるとことか感動したわ。「本気で取り組んでますから!」という雰囲気がちゃんと伝わってきたのは大いに評価したい。
これもすごくわかる、ていうか、まさにそーなんですよ、主体が女子だからこそ過剰なまでの「本気」を描く必要があるんですよね。わかってるなー。ほんと抜かりないわあ、このアニメ。女子たち本気すぎていささか高みに達しすぎてしまったのはご愛嬌だけれども。
●結論
大傑作てわけではないのだけれど、正直、穴という穴があまり見当たらない作品。少女たちの緩い日常のノリが大丈夫ならば、たぶん観て損しないんじゃないかなと。
ここまでベタ褒めしたの久しぶりな気がします。