らしたー さんの感想・評価
3.2
物語 : 2.5
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
心眼で読み解く気合が必要
とにかく説明不足、描写不足。これに尽きる。
ぱっと見の雰囲気はすごく良い。抑えた色調と効果的な音響演出、媚のないキャラクター造形が名作っぽい空気を漂わせている。が、残念ながらそれだけの作品。最後まで観てようやく答えのようなものが提示されるも、「うん。で?」という感想しかない。
●省察
各話タイトルの前につく「省察」(せいさつ)という文言はデカルトの有名な著書名の引用と思われる。『省察』(1641)で論じられている方法的懐疑が主人公二人(ビンセントとリル)の出発点であり、ビンセントは自己の存在を、リルはディストピアとしてのロムドに懐疑を抱き、真実探求の旅をする。自我を疑う男と世界を疑う女というわけである。
…わけなのだが、男は男で茫漠たる認識論の森に迷い込み、女の方はどんな過酷な真実も受け容れるわの一辺倒、周りの人間は自己の存在理由たるや云々と大騒ぎ。浮世離れしていることこの上ない。もうみんな力みすぎ。
●面白いのか?
扱うテーマの重さはわかるが、なにしろすべてが唐突、曖昧にして独善的。視聴者はカットの行間までしっかり読むべきだという作り手の傲慢さが伺える。いや、むしろ前後の描写が欠けている行間ですら心眼で読み解くくらいの気合が必要。それはもはや行間ではない。
いつもは作品を観終わった後で、表現したいことは何で、それに対してブレがなかったかという点を考えるのだが、本作に関しては正直どうでも良くなった。途中からエンターテインメントとして接することができなくなったのである。自分に哲学的に物を考えるセンスが致命的に欠けているせいかもしれない。
いちばん楽しめたのはピノがうさぎの着ぐるみで「ヒョーイ♪」ってジャンプした瞬間である。それかリルの筋トレ。片腕立て伏せする女なんてG.I.ジェーンのデミ・ムーア以来だ。そこくらいなんだよ、この作品がアニメーション作品でよかったなと思えたのは。逆に言えば、ほかのメディアでよかったんじゃないのっていう。
酷評になってしまったが、密かに期待していただけにガッカリ感がものすごいのである。小難しいフランス映画を女優が綺麗だからって最後まで観たけどやっぱり時間無駄にした~みたいなこの空疎感。
なまじ絵と音楽の水準が高いのが恨めしい。