らしたー さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
三十路女が大活躍。とても格調高いアニメ。
その身に水妖を宿したことから帝である実父に命を狙われる第二皇子チャグムと、用心棒として彼を守る女槍使いバルサとの絆を描いた物語。生命や自然への讃歌も力強い。
攻殻SACや東のエデンの神山健治が監督脚本を手がけており、そうでなかったら観なかった可能性が高い。静と動メリハリのきいたストーリーテリングが秀逸である。
分類としては東洋風ファンタジーか。大陸的な雰囲気と日本の精神性が同化したような世界で、呪術や星読みが政の柱として認知されており、見えざるものに対する人々の理解も深い。
ちなみにファンタジーとはいっても民俗学的なアプローチを基調としているため、ハイファンタジーという感じでもない。そもそも人間模様の描写に力を入れているため、ファンタジーを観ている感覚は希薄といってよい。
物語の進行は皇子と女用心棒の逃避行が主軸だが、追う側と追われる側双方における行動原理の変化と保持している情報の進展によって、逃避行の質が微妙に変わっていく展開はお見事。粗筋にすると退屈なのに、実際観ると妙に先が気になる作りというか。
主人公バルサの設定にも注目で、「今年で30歳」ときいたときは驚いた。アニメの主人公女性としては異例の高齢である。ふつうに作中でオバサンなどと呼ばれているのは実に新鮮であった。無頼漢のようでいて、その実社会性のある大人の女性として描かれている。
年齢設定の高さが、強く厳しく優しい彼女の人間的魅力を説得力のあるものにしていたのも事実。ガンダムのブライト艦長が19歳と知ってずっこけたのと対照的。バルサの声をあてている安藤麻吹は舞台や洋画吹き替え方面での活躍が多い方のようだ。その演技力にも注目したい。
やや毒気に乏しい印象はある。魅力的な悪役がいないというのもあるが、どこか絵本のような潔癖さというか、いい子ちゃんぶりっこしてるというか、いかにもNHKらしいというか。お行儀が良すぎるのは好みの分かれるところではある。
とはいえ、ビジュアル・音響ともに非常に高い水準に仕上がっている佳作であることは間違いない。そして攻殻SACの時も思ったが神山氏はサブキャラに見せ場を作るのがとってもうまい。