ヒロトシ さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
産業革命という時代背景
言わずと知れたスタジオジブリの代表作。今でも根強い人気を誇り、金曜ロードショーで放送されると、それなりの数字を叩き出すので、これから先もずっと放送されるのは間違いない名作ですね。ラピュタの元ネタは本編でも多少触れられていますけど、スウィフトのガリバー旅行記に出てくる空中都市です。ちなみにガリバー旅行記には日本も登場してくる事で有名だったりします。
このガリバー旅行記で有名なのは、ディズニーによるアニメで知っている人が大半だと思うんですけど、あれは子供向けにテイストを若干変えており、本来のガリバー旅行記とは全く意図のかけ離れた作品になってしまっています。ディズニーは映像化という意味では、素晴らしい仕事をしてくれてはいるんですが、より万人向けというか、子供を意識した方針からか作品の本来のメッセージをねじ曲げた功罪も同時に持っています。最も代表的なのはピーターパンが被害者としては有名ですね。元々ガリバーは子供に向けてというよりは、大人達のストレス発散的な側面(読者あるいは執筆した本人も含め)も持ち合わせており、世の中を痛烈に皮肉った風刺めいたものでした。
ラピュタの世界は、現代で言うと『産業革命』に当たります。ラピュタのOPを見てもらうと、判りますが、やたらと風車が出てくるんですね。実は産業革命以前は人間は動力を自然に頼っていたわけです。その代表格が、風車でした。ですが産業革命を境に、今までの自然動力は鳴りを潜め、代わりに石炭を中心とした内燃機関が新たなエネルギーとして注目され始め、あれよあれよという間に普及する事になります。風車が沢山出てくるという事象は、産業革命に対する宮崎監督なりのメッセージなり想いなりというのは果たして考えすぎでしょうか。
そして産業革命を推し進めたのがイギリスです。イギリスの産業革命が成立した背景にまで、細かく突っ込むと、歴史の話になっちゃうんで、端折りますがw この産業革命の結果、安価で変えの効く労働力(つまりは人間)とそれを効率よく活かす機械によって、商品の大量生産を可能にすると同時に、資本家と労働者という二極図式も成立し、現代にも通じる資本主義社会としてのモデルが完成します。イギリスは当時卓越した航行術を持っていたので、海運国家としては隆盛しており、沢山の植民地を持っていました。植民地をも巻き込んだ産業革命という思想は、国家と利権を得る資本家の繁栄を今まで以上に約束しましたが、同時に労働者への利権を奪うものでもあり、当時イギリスの植民地であったインドはこれによって、自国の経済を狂わせられてしまいます。ちなみに後にこれを打開するのが、独立の父として知られるガンジーです。
ガリバー旅行記の作者であるスウィフトは元々アイルランド人であり、当時のアイルランドはイギリスの経済政策で利権を吸い上げられ、苦しんでいました。イギリスを資本家、アイルランドを労働者になぞらえて、イギリス社会の批判を念頭に置いて、、批判のベースとして、空想的な国家による文明を作り上げて、ガリバーを通して、文明を皮肉り、当時のイギリスへの私論を展開したというのが、ガリバー旅行記という作品なわけです。
アニメの話に戻りますが、作中では主人公であるパズーが産業革命期の労働者として描かれています。対して政府の人間であるムスカは資本家という立場。労働者と資本家の対立を軸とする展開は、やはりガリバー旅行記の意図を大分意識した作りと言わざるを得ませんし、高度な文明に魅了され、自身の利益しか考えないムスカという人間は、良くも悪くも資本家の典型的なパターンではないでしょうか。対してパズーはそんなムスカとは対極的な存在。自身の利益というよりは、夢と大志を優先する少年です。当時産業革命によって、辛酸を舐めさせられていた労働者が拠り所にしていたのが、パズーのような考え方だったのではないかと思うと、宮崎駿監督の思考が透けて見えてくるようで面白いなと思う次第です。
単純にエンタメとして鑑賞しても面白い作品なのですが、産業革命という歴史的背景を考えた上で、鑑賞すると全く違った面白さが感じられると思います。ちなみに産業革命は環境破壊という負の側面も生み出していまして、後に環境保護運動の礎にもなりました。そういう意味ではナウシカとも通じる所があったりしますね。最後のはちょっとこじつけっぽいですがw