namnam さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
次元の垣根を越えて「圧倒的絶望感と恐怖」を体感させる、計算された演出の数々。
この間昼下がりに散歩をしてたら、
小学生のグループがリコーダーケース振り回して「駆逐してやるうううっ!」って叫んでた。
そんなシーンを間近で見て「ああ、社会現象なんだな」と実感。
さて、そんな2013年のモンスター級アニメの魅力の理由を、4つの観点から考えてみました。
【1】
■澤野さんの絶妙なBGMタイミング
コミック原作を愛読している人からすれば、「過剰な演出」に聞こえるかもしれないが、
アニメーション特有の、音の引き算を熟考されて作られた作品。
「その日、人類は思い出した。奴らに支配されていた恐怖を…。 鳥かごの中に囚われていた屈辱を…。」
のナレーションとともに恐怖のメロディへ…
「お前ら剣を抜け。ソレが姿を現すとしたら…一瞬だ」「無音….」からの女型の巨人の爆発的登場。
巨人に喰われるという現実に突きつけられた人類。
その圧倒的な絶望感と恐怖感、これをこれほどまでに見事に描写するとは。
この澤野弘之さん(Hiroyuki Sawano)とは?
<主な作品>
ドラマ 【医龍 Team Medical Dragon】【トライアングル】【東京タワー オカンとボクと、時々、オトン】
【魔王】【タイヨウのうた】【貧乏男子ボンビーメン】【マイガール】
【マークスの山】【プリズナー】etc.
アニメ 【機動戦士ガンダムUC】【青の祓魔師】【戦国BASARA】【ギルティクラウン】【機神大戦ギガンティック・フォーミュラ】
【ZOMBIE-LOAN】etc.
映画 【自虐の詩】【陰日向に咲く】etc.
その他 【NHKスペシャル『ミラクルボディー』】Op&Edテーマ曲,BGM数曲
【NHK『サンデースポーツ』】Op&Edテーマ曲,BGM数曲
【NHK『サイエンスZERO』】Op&Edテーマ曲
【SUZUKI】(CM)“SWIFT”(2007~2008)音楽
【フジテレビ『フィギュアスケート2010-2011』】“ボレロ~Passion on Ice”編曲
アニメーションのみの音楽演出家ではなく、ドラマ、アニメ、実写映画など多岐に渡る作品の作曲や編曲を手がけているという点が興味深い。
なるほど、だからこそあのアニメーション離れした演出が出来たのか。
こうやって彼の手がけた作品を眺めてみれば、進撃の巨人の音楽演出が「NHKスペシャルか、ガイアの夜明け、それかプロジェクトXくらいの盛り上がりようだった」のが頷ける。
【2】
■シーンを象徴的に演出する『止め絵』
”絵を止めることで、その場面の持っているメッセージを誇張する”
それが止め絵の真骨頂だ。
本作品「進撃の巨人」も、しばしばこの方法が効果的に使用されている。
例えば、
1. OP1の ”黄昏に緋を穿つ 紅蓮の弓矢〜♪”(1:05付近)の部分で、エレンと超大型巨人の目が合うシーン。
2. 21話で部下達に目を瞑ってたのが黙祷っぽくて良かった
原作では無く、一番ゾクゾクしたシーン。
ただ、中には作画班が放送までに間に合わなかった為に発生した『静止画』もあるので判別に注意したい。
(まあ、明らかに手抜きというか間に合わなかった感があるシーンはいくつかあるけど、重要度低い部分&BDで補充可能なのでOK)
例として13話。あれは止め絵というよりも静止画が多かった。
まあ次の回を総集編にしたところをみると、そうとうキツかったんでしょう。
EDのスタッフロール見たら、作監2桁に作画会社数社入り乱れてて制作がまったく追いついてないのが丸わかりだった。
だから間違いなく総集編ある、と思ったらやっぱりあった!
(作画班の皆さん、生きてらっしゃるだろうか心配)
【3】
■隊の配置についての絵的な説明やその演出の素晴らしさ
Infographics(information + graphics)という手法。
情報を惹きつけるデザイン性を持ち、なおかつ効率的に伝える。
色、形等の、主観だけでない客観的な心理学的デザイン。
特にその力が出たのが、
1. 壁外遠征での隊の配置の説明と、
2. 現在公開可能な情報
この作品の設定って、初見の人にはなかなか難解(自分も含めて)。
しかも機械的なもの(陣形もデータも機械そのものも)もどんどん新しいものが出てくる。
これらを説明する時には、文章やセリフだけではなく「見せて伝える」ことが重要。
そういった時、Inforgraphics(インフォグラフィックス)の手法を学んでいるかどうかで、視聴者に伝えることが出来る情報量が大きく変わる。
特に時間の制限が厳しいアニメーションではなおさらのこと。
このように情報を効率的に視覚化することで、伝わりづらい数値や専門的な情報も比較的伝えやすくなり、
その結果あの完成された解説を創り上げることが出来たんじゃないかと思います。
【4】
■立体機動装置の「線」の多さが尋常じゃない…のにキャラが動く動く動く!
これ、3Dで作ってモデリングしてるのかと思ったら、いちいち描いてるらしい汗
WIT STUDIO のとあるスタッフさんがtwitterでつぶやいていたのですが、
"あのコスチュームやアイテム、装飾品は「止め」のカットでも平均より1.5倍ぐらいキツイとのこと。
「平均以上の単価」ではあるらしいが、その作業量に見合わない。
昔は線、ディティールの多い漫画をアニメ化する際には線、ディティールを省略した「アニメ用」の設定を作ったもの。
でも今は原作通りやる傾向にある=スタッフとしては苦痛。
そして本作品では装置のデザインを原作以上に大幅に付け足す、という本腰の入れよう。"
とまあ、スタジオはパンク寸前なのらしいが、
視聴者としては ”よくぞ押し進めてくれた荒木監督! そしてスタッフの皆さん! 圧巻でした” と拍手を送りたいです。
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最後に本作のメインヒロインと名高い、アルミン・アルレルトの印象に残ったセリフを。
「あとでこうするべきだったって言うことは簡単だ。
でも、結果なんて誰にもわからないよ。
わからなくても選択の時は必ずくるし、しなきゃいけない。
たいして長くも生きてないけど、確信していることがあるんだ。
何かを変えることができる人間がいるとすれば、その人はきっと大事なものを捨てることが出来る人だ。
何も捨てることができない人には、なにも変えることはできないだろう。」
戦時下に彼が放つこの言葉は、なんだか妙に心に突き刺さる。