namnam さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「言葉」「会話」「音響」「陰影」「色彩」 それぞれを真剣に遊びながら織り込ませた、ひとつの偉大なるアートピース。(満足度102p)
勝手ながら、化物語を4つの視点から分析してみました。
① 独自の遠近法:消失点のない平面的な構成。歌舞伎の舞台を彷彿とさせるようなレイアウト。
新房昭之さんとシャフトによる努力の結晶でしょう。
実は歌舞伎の舞台っていうのは平面的で立体感がないもの。
タッパが低く・奥行きのない装置・そして陰影を出さない照明、いずれもが舞台面から立体感を消してしまうことを意図しているように思われる。
そんな舞台を彷彿とさせるレイアウトをベースに、極彩色を薄めに落とし込んだパレットで彩る。
まるで日本人が誇る浮世絵を眺めているかのよう。
それらが細かいカット割にによって、まるで動きまわる紙芝居のように演出されている。
そんな舞台に立つのは、コレでもか!と言わんばかりの名キャラ・名優達。
もう悶絶ものである。
あのディズニーでさえ映画46作以降、 ピクサーとタッグを組んで平面的なアニメーションを後回しにした。
今やUSではアニメーションといえばトイ・ストーリー、カーズをはじめとするCGアニメが主流。
その反面、日本は平面構成から生まれる「隠喩的」な立体映像を視聴者に届けることを突き進めている。
そんな日本固有の「立体への挑戦とその定義」を、うまく近代に落とし込めたもの。それが本作品だと感じた。
② 線という概念:切れ味の鋭い文字列の群とその演出。
”活字が気を纏って、いつの間にか生き物に見えてくる”
そんな事を感じたのは自分だけではないと思う。
文字が「化」けるのだ。そして「語」りかけるのだ。
原作の文章やキャラクターの台詞が、声(聴覚)だけではなく文字(視覚)としてフラッシュバックのように映し出される。
そんな廻り舞台のような演出は、スピーディーな舞台転換を可能にし、芝居の進行中でさえ次の場面へとスムーズに切り替えることができる。
そして活字の群れが折り重なることによって陰陽凹凸遠近深浅が表れ、不思議とそこに立体感が生まれる。
おもしろいことにそんな文字列に時には笑い、時には恐怖さえ覚えたりする。
そう、まるで彼らが「生きているかのよう」に。
余談:新房監督はこの「化物語」においても積極的に明朝体(HGP明朝B)を使っている。実はコレ、テレビや映画でフォントを使うには許可を取らなければならない場合が多い。新房監督作品はメジャーなフォントが多いのはシャフトの財政がアレなんじゃないかと思ってみたり。
(by psychedeledge)
③ 視覚的「間合い」と「呼吸」:美しい流れの会話の掛け合い。
この作品一番の醍醐味であり、他の作品の追随を許さない大きなポイント。
これがまたおもしろいのなんの。
セリフが哲学的だとか考えさせられるされない云々ではなく、”ただ単におもしろい” のだ。
次から次へと折り重なるしゃべりとしゃべり、スベリとシカト、ボケとツッコミ、そしてその間合い。
言葉の掛け合いの中に生まれる呼吸と娯楽、そして緊張感。
ストーリーを追うというよりは、掛け合いを楽しむのが醍醐味。
”しゃべりとしゃべりの間合いを楽しむ”
それは日本固有の伝統芸能、落語を彷彿とさせる。
"教訓やカタルシスがないから、何を言いたいのか伝わってこない"
そう、それでもいいんだよ。
興味がわくストーリー展開だとか哲学的・教訓的だとかそういったものを求めなくても成り立つ会話劇なんです。
西尾氏も原作で「100%趣味で書かれた小説です」と言っている。
趣味が合うなら面白い、合わないならつまらないというシンプルなもの。
ここで着目したいのは、好き嫌いよりもその「完成度」。
それを可能にしたのは、製作陣による絶妙なキャスティング。
● 阿良々木暦 :神谷浩史
● 戦場ヶ原ひたぎ:斎藤千和
● 八九寺真宵 :加藤英美里
● 神原駿河 :沢城みゆき
● 千石撫子 :花澤香菜
● 羽川翼 :堀江由衣
● 忍野メメ :櫻井孝宏
● 忍野忍 :平野綾(偽以降は坂本真綾)
● 阿良々木火憐 :喜多村英梨
● 阿良々木月火 :井口裕香
いやあ、いつ見てもシビれる。
これほどまでに「声優」という存在の大切さを実感した作品はなかった。
④ キャラのブランディング
これが「神作品」という座を揺るぎないものにしたのではないだろうか。
好き嫌いが出そうな会話劇に、アニメーションだからできる「萌」要素というパワーを注入した。
完成度の高いキャラクターをつくりあげた大きなの理由として、
(1) 渡辺明夫氏のキャラデザと
(2) それぞれの声優が歌うオリジナルソングが一役・二役貢献している。
● ひたぎクラブ :「stample stable」by 戦場ヶ原ひたぎ
● まよいマイマイ :「帰り道」by 八九寺真宵
● するがモンキー :「ambivalent world」by 神原駿河
● なでこスネイク :「恋愛サーキュレーション」by 千石撫子
● つばさキャット :「sugar sweet nightmare」by 羽川翼
これら全ての曲、プラスあの効果的な全BGMを
作詞 - meg rock / 作曲・編曲 - 神前暁
の2人が作り上げた。
この黄金タッグがキャラと声優の魅力を何十倍にも引き立て、作品存続のキーとなるディスクの売れ行き、そして2次的作品の充実度に大きく貢献したのではないかと思う。
特に驚きなのが作曲・編曲を担当した、神前暁氏。
下記の作品のOP&ED&挿入歌&BGMなど、キャラクター(声優)によって歌われる曲のほぼ全ては彼の手によってつくられています。
(詳しくはwikiを参照して下さると嬉しいです)
* 『涼宮ハルヒの憂鬱』
* 『らき☆すた(OVA含む)』
* 『かんなぎ』
* 『化物語』
* 『涼宮ハルヒの消失』
* 『WORKING!!』
* 『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』
* 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』
* 『放浪息子』(BGM)
* 『Aチャンネル(OVA含む)』
* 『THE IDOLM@STER』
* 『偽物語』
* 『夏目友人帳 肆』
* 『じょしらく』
* 『猫物語(黒)』
* 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。2期』
* 『波打際のむろみさん』
初めてこの事実を知った時、一瞬目を疑いました。
驚きの神前暁氏、脱帽です。
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それら4つを頭にとめながらもう一度視聴してみた。
まるで「動く浮世絵の紙芝居。そしてそれと同調して繰り出される華麗な落語劇」を見ているかのよう。
一話、二話と視聴してこれにハマった方はそのまま抜け出せなくなる事間違い無しであろう。
ただ人によっては、一話ごとの情報量とフラッシュのように変わる映像と会話劇に頭がパンクしそうになる方も少なからずいる。
というか当の自分がそうでした。(よって2回とも断念)
だが物は試しの3度目のトライで一気に惹き込まれて、そのまま芋づる式に偽→猫→佰物語CDまでストレートに見切ってしまいました。
(コメンタリーもあるし、BDで見ることをオススメします)
「言葉」「会話」「音響」「陰影」「色彩」
それぞれを真剣に遊びながら織り込ませた、ひとつの偉大なるアートピースと言っても過言ではないと思える出来でした。
”あー日本語知ってて良かったあ〜”
と思わせてくれる、我が国が誇る近代アニメーションの至宝です!!