モモンガ喪中 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
やはりメインヒロインは永瀬伊織
10話からの稲葉 姫子のかわいさに自分も含めみんな稲葉が好きになった。
ふうせんかずらに翻弄されながらも仲間を思いやり乗り越えて行く。そして深まってゆく絆。そういった積み上げてゆく人生についてゆけない人間が一人いた。
それがこの物語の真のヒロインである永瀬伊織である。
コロコロ変わる不安定な家庭環境に翻弄される幼少期を送った伊織はいつの間にか人生の主人公が自分ではなくなってしまった。故に人と本当の意味で共感し分かち合う事が出来ない。
お互いを理解し合う友人を尻目に自分にはここにすら居場所なんてないんだ。という過酷な現実だけが付きつけられる。
道化というものは道化ている時間だけはなんとか体裁を保っていられるが道化師の仮面を取ってしまった後の喪失感は埋めようがない。
大人になった時に色々な顔をもつのは構わないが幼少期や人格形成時に人の要求する自分になるのはその後の人生に埋めようのない虚無感を抱えることになる。
こんな伊織のような人間は世の中にいっぱいいる。
もちろん現実にふうぜんかずらのような事は起きずみんなそのような自分を決して人から悟られずいい人だという評価を得るためにボロ雑巾のような人生を送るのだ。多くの普通の人は自己実現や自分の喜びの為に努力しそこで共感しうる人間と絆を深め結婚やその後の人生に繋がってゆく。
カコランダムの13話の最後に(私は本当に太一の事が好きなのか)と伊織が本当の自分の存在に気が付きはじめる。
ここからが本当の永瀬伊織の話になる。
目の前の問題を解決して絆を深めてゆける仲間。
けっしてそういう人生を歩めない自分。
どこまでいっても道化は道化でしかない。
決して本当の人生なんか共に歩めやしないんだ。
それは全てを拒絶するという行為でしか正気を保っていられない。
この13話この5人がいればという空虚なタイトルからのミチランダムへの流れこそが最大の見せ場であり、ここを放送しなかったことが本当に悔やまれる。
実際伊織のような人間は現実世界ではまず救われる事はない。
自分で築きあげたものをその都度破壊しつくし、また0からやり直す。人を欺き道化ていた分人から笑われないためにそうならざる得ない。
みんなから愛されるがそこに安住の地はなくわざわざ不毛な荒地の開拓に人生を費やす。
なんかキャラ違くない?現実はそこで全ておしまいである。
永瀬伊織と文化研究部の関係も。学校生活も。なにもかもおしまいである。
ありえない現実・・・そこが作り物の良さだがそこからの仲間たちの善意の押し付け。決して見捨てない。という姿勢がまた伊織を苦しめる事になるのだが結果的に扉をこじ開けるその様は古事記の天岩戸のごときであり、嫌味無く救いがある。
EDがおわりエンドカードの伊織の満面の笑顔。それは一人の少女が本当に自分自身になる=多くの人の力をかりて大人の自立した人間になるというメッセージが込められている。
太一が初めて好きになりそして触れ合うことも出来ない彼女。そしていつもそばにいて実際に付き合うのは稲葉というのもこの伊織という存在が真のメインヒロインであることを物語っている。太一と稲葉の将来は想像に難しくはないが伊織の将来はやはりどこか不安な部分がある。それでも太一の心に深く居続ける存在であることには変わりはない。男にとって一生忘れる事の出来ないただ一人の女性となった。
ほんとうに見事な最終回であったので、ミチランダムがより多くの人に見られる事を望む。
なにかにつまずいてしまった大人や子育てに苦しんでいる人や世の中を醒めた目で観てしまっている少年少女。多くの人に見てほしい佳作である。