りく さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 3.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
練りに練られた世界観と切ない物語展開が魅力! 中盤から一気に面白くなります(追記あり)
原作未読。貴志祐介というと「青の炎」であまりの切なさに心を揺さぶられまくった記憶がありますw
色々問題点もあって途中で切った人も多いと思いますが、たくさんの人に見て欲しいと思える良作だったので、未視聴の方はぜひ!
(未視聴の方も読めるようにネタバレ隠しを多用しています)
人類が超能力を持つようになった1000年後の日本が舞台。日本と言っても現実の日本の面影は全く感じられないような世界になっていて、そこが大きな魅力でもあります。
この作りこまれた世界観が素晴らしいのですが、独特すぎる設定・造語が非常に多く、アニメでは説明を省略してしまっていることもあり、最初はかなり取っつきにくいです。が、一度単語や設定が理解できるとどんどんその深みにハマっていけると思います。自分でwikiを使って調べるなど、能動的に楽しもうとする姿勢が必要なアニメではありますね。私はそのせいで若干ネタバレ食らいましたがw
12歳編、14歳編、26歳編と分かれており、正直12歳編は退屈でした。一言でいえば子供たちの冒険といった感じですが、単語の意味や世界設定を把握しきれておらず、冒険特有のワクワク感もあまり感じられなかったんですよね。加えてこのあたりは、分かりづらい描写や崩れた作画などが話題になっていて、私も惰性で見ていたことは否定できません。
しかし、14歳編で主人公たちにとって重大な事件が起こり、様々な事実が判明していき、さらにまた悲しい出来事が起こり……。この辺から面白くなってくるのですが、とにかく悪い方向にしか進んでいかないので、気持ち的には暗くなってしまいました(´・ω・`)
{netabare} 瞬の業魔化、歪みきった社会の説明、真理亜と守の失踪(+死亡)など、立て続けに衝撃的な出来事が起こり、別れを重ねていく14歳編が一番悲しかったです……。{/netabare}
本格的にドキドキな展開となるのは26歳編ですね。{netabare}人間とバケネズミの戦争となりますが、悪鬼の登場により人間たちが次々と虐殺されていきます。姿を現すまでの恐ろしさ、姿を現してからの絶望など、悪鬼としての不気味さ・恐怖が存分に描かれていたと思います。真里亜と守の子供であるというのも確定してしまい、早季にとっては辛かったでしょうね……。
悪鬼の正体は「何らかの理由でバケネズミ側についた真里亜か守かな?」なんて想像もしたんですが、子供でした。サイコバスター燃やしたところで「お、これは早季が愛情によって悪鬼を味方にする展開では!?」と期待してたら普通に殺しちゃいましたね。しかもキロウマルを犠牲にして。
しょうがないっちゃしょうがないんですが、一人ぼっちになりたくないからサイコバスターを燃やして覚を助け、キロウマルを犠牲にし、愧死機構が人間ではなくバケネズミに対して機能するだけのただの子供(しかも真里亜と守の)を結局は殺してしまう早季。12歳編時のヒステリックな感じも含めて、とてもリアルで人間味あふれるキャラクターですが、物語の主人公としてはちょっとブレ気味かも。{/netabare}
そして最終話。{netabare}実はバケネズミも元は人間であるという衝撃の事実が判明します。
超能力者たちにとって都合の良い生物となることを強制された一般人、それがバケネズミだったわけですが、この物語は人間たちばかりに共感していられないという点で秀逸だったと思います。最終的には人間の勝利で終わりましたが、最後の裁判など歪んだ人間像が浮き彫りになって、爽快さは(良い意味で)全く感じられませんでした。{/netabare}
{netabare}早季と覚の結婚はこの物語では唯一と言ってもいいほど珍しい、幸せな出来事でしたね!
頬を染めて緊張してる覚に対して、落ち着いた様子で覚を見守っている早季が印象的でしたw
この時の二人は本当に素敵で、短いですけど大好きなシーンです。{/netabare}
{netabare} 早季が子孫に宛てて手記を書いて物語は幕を閉じました。登場人物のほとんどが死んでしまい、これからどんな社会になっていくのか不安もありますが、バケネズミのために奔走する早季や覚もいますし、悪い方ばかりに行くこともないのではないかと思います。
最後のシーンのように、子供たちの笑い声が響く住みやすい社会ができる事を祈るばかりです。{/netabare}
とっつきにくい世界観、地味なキャラデザ、あまり面白くない12歳編など、なかなか見ようという気が起きない作品かもしれませんが、中盤~終盤の展開は非常に刺激的ですし、伏線の回収も見事です。
物悲しい気持ちが残りつつも後味は悪くなく、何とも言えない余韻が残る作品でした。序盤で諦めず、ぜひ最後まで見てほしいです。
<追記>
今更ながらようやく原作を読み終わったので、アニメだけでは分からなかったこと・違いなどを比較しつつ、思うところを書いてみたいと思います。
ネタバレ全開なので、「これから読む予定だぜ!」とか「今まさに読んでるぜ!」という方はご注意を。
{netabare} 終わり方がアニメ版とはだいぶ印象が違っていて驚きました。アニメでは、多くの犠牲を払ったけれども未来に希望の持てる形で終幕を迎えましたが、原作ではなかなかに絶望的な状況になってしまっているんですね。
悪鬼は「社会全体が著しい緊張や感情的な動揺に晒された10年後」に出現する可能性が高いという仮説が提唱されたほか、精神が不安定な親に育てられた子供は業魔になる確率が飛躍的に高まってしまうという分析がなされたとか。
そのため、36歳となった現在の早季たちは、かつてないほど悪鬼と業魔の誕生の危険に怯えているようです。覚が不浄猫をたくさん作っていたのはその対策のためだったという……。
アニメで見た時は「かわいい!」なんて和んでいたんですが(´・ω・`)
さらに、早季と覚は「変わらなきゃいけない」という点では一致しつつも、具体的にどう変わっていくかについてはアニメでは触れられていませんでした。
早季は、攻撃抑制と愧死機構という歪んだ枷によって得られた平和に疑問を抱いているようであり、将来的には再び多くの血を流すことになろうとも、この枷を解き放つべきだと考えていることが分かります。
ここで自分なりに考えてみたんですが、
・早季は、どんな事をしてでも攻撃抑制と愧死機構から解放されるべきだと考えている
・バケネズミの女王は、一種の限定的な呪力を用いてミュータントタイプの子供を生み出すことができる
・呪力の源は想像力、そしてラストのメッセージは「想像力こそが、すべてを変える」
・早季は現在妊娠中
・子供はどんな事があろうとも逞しく生きてくれると信じている
と、なんだか壮絶な未来を予想させる情報がチラホラ出ているように感じられました。{/netabare}
とまあ、色々気になったことを書きましたが、小説もアニメもそれぞれに良いところがありますね。
魅力的な世界観をじっくりと味わいつつ、丁寧に物語を楽しみたいなら小説ですが、26歳編(特に最終回)の出来はアニメ版の方が圧倒的に良かったと思います。声と音楽によって重みが出ていますし、セリフ回しとまとめ方が鳥肌が立つくらい上手かったんですよね。
個人的には、アニメで全体のイメージを掴んでから原作を読むというのがオススメです。新しい発見もありますし。
もしかしたら、12歳編と14歳編は原作を読んで、26歳編はアニメに切り替えるというのが最高かもしれませんね!