みかみ(みみかき) さんの感想・評価
3.4
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
FFよりは良い厨二。しかし、攻殻的なものは期待すべきでない。
ハードボイルド系SFファンタジー、エンタテイメント…でした。エンタテイメント作品として無難に見られるし、戦闘シーンは面白い。だが、物語が提示するいやゆる「深み」みたいなブブンは、残念ながら「雰囲気」を醸しだしているだけで終わっている。
「ハードボイルド・エンタテインメント」としては面白いけど、
「ハードボイルドSF」というジャンル名で呼ぶなら、いま一歩。ハードボイルドSFだと、どうしても攻殻が頭にちらつくけど、間違っても攻殻と比べると、期待はずれになる。
そういうわけで、「傑作」とは呼びがたいが、エンタテインメントだと割り切って見る分には「秀作」と呼ぶにはためらいがない作品。全般的に、面白くは見られる。
■単にエンタメとして見れば、面白い1:アクションゲーム的方法論
エンタテインメント作品としては、全体に無難によくできており、この作品は、やっぱり基本的にはアクションを軸にしたハードボイルド・エンタメだな、と。
異能力者同士の戦闘、としながらもけっこうバタ臭い動きしかできない主人公を配置しているあたりとかは、こだわりを感じる。ジョジョよりもフィクションだけれども、Narutoなんかよりも「戦闘」のリアルさを表現しようという欲望を感じる。
まあ、主人公本人は派手さに欠ける…という節もなくはないのだけれども、たいがいの場合、敵のほうが派手なので、派手な敵に対して地味な主人公がどうやって、対処していくかというあたりをうまく見所として構成できている感じがする。いってみれば、地味な動きしかできないアクションゲームの主人公をつかって、派手なアクションのボスキャラをどうやって対処していくか…みたいなのを感じるときの…そう、よくできたアクションゲームをプレイしているときのような楽しさがある。
ゼルダの伝説、でも魔界村でもなんでもいいけど。主人公を地味にすることで、逆にこういうコントラストを生む、という方法論は、なるほど面白いな、といった印象。
■単にエンタメとして見れば、面白い2:手堅いストーリー・ライン
あと、まあ、これはほんとに、手堅くまとめてあるな、という印象しかないのだけれども、
ストーリーの大筋の運びとしては
1:巨大ななぞの解きほぐしプロセス:なぞの組織、なぞの契約者
、その他のなぞの人たちが、少しずつ明らかに
2:浮かび出てくる敵の存在:クライマックスにむけて徐々に
3:適当にコメディ織り交ぜ
4:適当に主要登場人物のエピソード織り交ぜ
といったあたりを、手堅く、2クールの中で作っていて、あー、うん、よくつくってありますね、と。
単に、エンタテイメントとしてだけ見れば、まったく文句のないきっちりとしたいい仕事でしょう。
…以上、ここまでがポジティヴなコメントです。
■問題描写の深さに関して、攻殻はけっこうガチだけど、こっちは「雰囲気」どまり
で、こっからは、ネガティヴなコメントになります。
政治臭とか、問題の哲学性みたいな部分は、作りこんであるような「雰囲気」だけ醸しておわってるな、と。
全体的には、「契約者」の身体性うんぬんなんてのは、とってつけた適当な設定だという程度のものだと考えてスルーするのが、さくっと、面白く鑑賞するための態度なのかなぁ、と。
Production I.Gの押井守、神山健治らの作品のようなものは期待できない。ゆうきまさみのような味わいもない。
■「身体の違い」で何が描かればよかったのか
「契約者」という設定自体は、一定の興味をそそられるが、この設定がいまひとつ、面白い展開につながっていない印象がある。
この契約者、という設定が活かされているとすれば以下の三点。
1.ジョジョ的、異能バトル
2.セカイ系的ファンタジー設定(世界を救うの救わないの、の話)をつくる上で。
3.古典的ハードボイルドでいえば、「おれはガンマン…、孤高の男、非常の男なのさ…」的な典型的なハードボイルド的な強い男の自意識みたいな、今ベタにやってしまうと「あいたた…」感の漂うものを、そこまでイタくない、必然的な人格、として描くという上では、この設定は貢献している
この三点においては、よくできている(特に三点目は、多少の工夫の面白さも感じる)。
しかし、どうせ、感情をなくした存在とか、そういうものにするのであれば、も少し踏み込んでもらいたかった。
たとえば、恋愛描写なんかで、もちっと深刻なトラブルを抱えるとか、人間関係とかでもう少し面白い描写があると、よかったんだけれども、なんだかんだで主人公はイイやつでしかなく、人間関係でそこまで深刻なトラブルがない。
■身体の倫理問題と、ゼロサムゲームの究極性
ごく身勝手なことをいえば、身体の違い、というものを前面に出している時点で、『寄生獣』『攻殻機動隊』のような、身体の差異が倫理/世界観の違いを構成しそのことが、特殊な悲劇やら問題構成の新規性を生む、ということを鮮やかに描いた作品とどうしても比べてしまう。
最近でいえば『まどかマギカ』がわかりやすく、そういう作品で、キューベエの「ぼくと、きみたちは、生物として違うから、君たちの悲しみはわけがわからないよ」みたいな落ち着いた語りがハイパー残酷に聞こえるみたいなね。まどか☆マギカは構成としてすごくうまかった、とは確かに思うけど。
*
この身体性の問題は、物語の最後のほうでは、ようやくクライマックスで据え置かれることになる。その点ではどうにか及第点。
「おまえら全員が死ぬか/おれら全員が死ぬか」みたいなゼロサムゲームの究極問題ね。
だが、こういう「俺ら全員が死ぬか、お前ら全員が死ぬか」の描写だけしたいなら、身体性の違い、という装置まではいらない気がしてしまう。
たとえば、『チャイルド・プラネット』(竹熊健太郎、永福一成)みたいなウィルス・パニックものとかのほうが問題の構成は、きわめて鮮明な形で描きえてる。ウィルス・パニックもののほうが問題が完全ファンタジーではなくて、ある程度まで現実に起こりうる「かもしれない」ぐらいのリアリティがあって怖いしね。同じ恐怖なら、『チャイルド・プラネット』のほうにわたしは軍配を上げます。
■適度な比較対象はFFとかかな…
そういうわけで、
どう考えても、本作の「身体の違い」問題は、深くない。
で、これはやっぱり物語上の演出、以上のものではないのかなって気がしてくるんだよね。
比較対象としてはたぶん、FFとかで。
あの「悲劇のヒーロー」「悲劇のヒロイン」ロジックでしょう。これって。野島シナリオ。
とくに、FF8、FF10、FF13あたりのシナリオの作り方がダダ被りだと思うんだけど「世界を救う俺らは、世界にとっての邪魔者…」みたいなね。
最強のナルシズム、お疲れ様でした!!!!!!!
みたいな、悲劇のヒーロー話を作りたいようにしか、見えない。
まあ、コードギアスだって、同じっちゃ同じなんだけど、あっちは、話の運び方とかテンション・マックスにもってくための作法がギャグみたいによくできてて、あれはあれで、すげぇ、みたいなのがあって、方法論として革新的だと思えるから、見られるんだけど。しかも、明らかにエンタメ志向でしかない、ということもあっちのほうが、より一層露骨だからね。「鑑賞の仕方」自体を間違えにくい。
こっちは単に、ストーリー作りは「手堅い」だけだし、どこまで本格派をきどりたいのか、掴みかねるんだよね。
まあ、最強のナルシズム構築、というのは、まあ、商売としてはうまくいくんだろうし、別に、これはこれでエンタテインメントとしては、よくできている、ということは異論はないです。
でも、まかり間違っても、「深く」はないです。これは。
ただのナルシズム加速装置です。
しかし、アニメの世界が幸福なのは、あくまで攻殻のような(あるていど)ガチなものが、それなりにきっちりとしたファン層を構築していることだよね。
ゲームの世界は、こういう最強ナルシズム・ロジックだけで作られている、FFのような完璧に厨二病の作品のほうが売れてますからね…
まあ、でも、本作とFF比べると、本作のほうがずっといいです。FFは苦痛でしかない。
■この作品のアイデンティティ次第で評価は変わる
最後、繰り返しになるけど、この作品は、エンタメとしては素晴らしいと思ってます。
なので、問題の深みみたいなことをもう一段、掘り下げてほしいなどというのはないものねだりかもしれないのですが、まあ、そこは制作陣が制作の際に「かっこいいハードボイルド作ろうぜ」といって制作してるのか、「攻殻に負けない、ガチなものを作ろうぜ」といって制作しているのか、によって、本作を成功と捉えるか失敗と捉えるか、は変わってくるだろうと思います。