粟島二武 さんの感想・評価
3.5
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
タイトルなし
概要的にはバンパイヤやゾンビ系統のホラーアニメで、特に後半は残酷な場面が多かった。ただ、ゾンビ側(屍鬼側)からの立場から、生き延びるために人間を犠牲にする屍鬼を単純に悪と決めつけていいのか、というテーマが全体を貫いていた。
{netabare} 旧約聖書では牧畜を営む弟アベルが神に受け入れられ、農耕を営む兄カインは受け入れられない。そのためカインはアベルを殺してしまうが、そこには嫉妬という、明確な殺人の動機が感じられる。この話をモチーフにしていると思われる室井の小説では、兄が弟を殺す動機がはっきりしない。兄は不器用さの象徴で、弟は世渡り上手の象徴のようにもとれるが、それによる嫉妬のために殺したことにはなっていない。人間は生きるために家畜を屠るが、アベルはその象徴であり、室井の話中でアベルに該当する弟は屍鬼を象徴し、兄は人間を象徴しているように見える。さらに室井の小説では弟とは実は兄自身だった、となっている。
屍鬼狩りを行う人間が徐々に屍鬼の殺戮に慣れて凶暴になっていくにつれ、屍鬼退治というより、魔女狩りや禁教時のキリスト教徒の迫害のような様相を呈してくる。室井が夜にこもっていた古い教会のステンドグラスに描かれた殉教者が、狩られてゆく屍鬼達の姿に重なる。
人間側から屍鬼狩りを指揮する尾崎と、屍鬼擁護派の室井の二人が話の主軸となるが、アニメを見る側の者をも、いつの間にか尾崎派と室井派に分けてしまうこわいアニメだと思った。
前半のオーソドックスなホラー展開での得体の知れない不気味な存在だった屍鬼が、実際に屍鬼達が登場して会話する場面以降は、屍鬼達があまりにも人間くさく、そのギャップが面白かった。{/netabare}
キャラクターデザインについて、主要な登場人物が典型的な少年漫画キャラなのに対して、脇役が地味でリアルなデザインであるギャップも面白かった。原作漫画の持ち味をうまく引き継いでいると思われる。