ヒロトシ さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
八百万の神
日本には古来から『八百万の神』という考え方があります。全ての万物には神様がいるという考え方です。極端に例をとって説明すると、私達が今見ているモニタにも神様はいるし、座っている椅子にも神様がいる、という考え方です。蟲師に登場してくる蟲もその神様と同一視される存在だと思います。それ故に人々の生活に身近に存在し、良い影響を与える事もあれば、悪い影響を与える事もある。このような要素は悪いものは『妖怪』として、良いものは『守り神』として崇め奉られる存在となりますが、この作品はそうしたものを全部ひっくるめて『蟲』として表現し、妖怪・守り神とは又違ったジャンルとして、作品の世界観を確立することに成功しているように思います。
この作品は、結末が基本的に人間にとって悪い方に軍配が上がってしまいます。それは蟲=神々と人間との間に絶対的な優先順位があるということを端的に示しているとも取れます。その間を取り持つのが、人でも蟲でもない存在である、ギンコという人物。人と蟲とを結びつける唯一無二の存在で、だからこそ、どちらの世界にも属せないという孤独な性質が、一層作品の退廃的な雰囲気を醸しだすのに一役買っているという印象を私は作品を鑑賞して強く持ちました。
ですがこの作品は決して暗部だけを強調しているわけではありません。ギンコが触れ合った人々の中には、結果的とはいえ、蟲と共存する生活を選択した人もいました。そういった未来もあるという事を示したのと、雄大で美しい自然が全編に渡ってこの作品には描かれた事。そうした表現を一貫した点において
は、暗部とは真逆の可能性を視聴者に訴えかけているような感覚を私は持っています。
視聴してすっきり爽やかになれる作品ではないですが、かといって陰鬱一辺倒な気分になる作品でもない。日本人の価値観がそのまま物語となって具現化したような存在、それが『蟲師』ではないかと。私はそう考えてしまいますね。我々は日本人だからこそ、この作品に強く引き込まれる何かが、外国人の人はそうした価値観を新鮮と思うから、この作品評価が高いのかなと。