けみかけ さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
死んだはずの義妹が、ある日突然「ぼく」を名乗って帰ってきた
皆さんはアニメミライという文化庁のプロジェクトをご存知でしょうか?
宮崎駿、庵野秀明、細田守・・・日本が生んだこれら著名な天才アニメ監督達は、『アニメーター出身』という共通の経歴を持っています
しかし現状のアニメ業界ではアニメタという職業の抱える問題は少なくありません
低賃金などの低い労働水準、より人件費の安い海外スタジオへの外注の多発・・・
これでは折角世界的にも評価を得てきた日本のアニメ作品の次代を担う若手が育たないのでは?
この問題へのメスを入れるべく、国家予算を投じて若手育成の為の現場(OJT)を用意しようというのがアニメミライであります
このプロジェクトは単に国のお金でアニメを作ろうというものではありません
次代の日本のアニメ業界を担う若手アニメタ達が動画マンから原画マンへ、原画マンから作画監督へ、作画監督から演出業や監督業へとステップアップしてもらうため、仕事をこなしていく中で先輩アニメタや監督から直接指導やアドバイスを受けて成長の糧にしてもらおうというのが主目的であります
また、あくまで日本のアニメ=日本の産業であることを喪失せず、作家性や芸術性に突出した作品よりも、むしろ商業展開への可能性を感じさせる作品作りを心がけて貰うのも特徴
最終的にはプロジェクトで得たノウハウが若手アニメタ個人の技量向上という小さなレベルから参加制作会社の若手育成環境の整備という大きなレベルへ、ゆくゆくは業界全体の労働環境改善へと広がっていくようにと願われて行われているのです
既にこの2012年度で第3回目にあたり、毎年参加する4社が厳正な審査の結果選出されます
審査の条件には面白い作品が作れるという企画力はもちろんのこと、参加アニメタが仕事を掛け持ちしないようにするスケジュール調整、プロジェクトが主催する講習への参加義務、海外スタジオへの下請け発注の禁止、参加アニメタへの一定の賃金の支払いなど様々な制約も含まれています
このプロジェクトに意義はあるのか?
それは是非ご自分の目で完成した作品をご覧になって確かめていただきたいと思います
この『アルヴ・レズル』という作品の原作は講談社とスターチャイルドが展開する新人賞を取ったラノベ作家、山口優による同名の受賞作
NLNと呼ばれるナノマシンを介することで人間の神経とコンピューターネットワークを無線通信で繋ぐことのできる未来
ある日、全世界で同時多発的にNLNユーザーが植物人間化するという突然かつ大規模な精神喪失事件が起こる
その犠牲者の一人となってしまい生死も分からない義理の妹を探すために、沖ノ鳥島にあるフロートで出来た未来都市を訪れた主人公、御影礼望(ミカゲレム)
妹が住んでいたはずの部屋で傷心に暮れる彼の前に、突然全裸で現れたのは精神を喪失したとされたはずの妹の御影詩希(ミカゲシキ)だった
詩希にはほとんど記憶が無く、自分が何者であったのかも思い出せないほど混乱している
しかし微かに残る記憶の中で『今の肉体が元々の自分のものではない』という違和感を受けており、精神喪失の前後で精神と肉体が入れ替わってしまったのでは?という疑問を感じていた
ネットワークに繋がれた機器の一切をNLNでコントロールする「アルヴ」という異能まで身につけてしまったがため、謎の実験組織に付け狙われる詩希
一人称まで「わたし」から「ぼく」になって別人と化してしまった『妹の姿をした少女』を、どう接するべきなのか苦悩する礼望
二人の当て無き逃走劇が幕を開ける・・・
今作で初監督を務めることになったのは異例中の異例とも言えるわずか23歳(当時)の吉原達矢
作画界隈では若くして演出、作監を経験した超々スピード出世で、若手の急先鋒として近年ずっと話題となっていた方です
さらに今作は新人賞作家の原作ということで若い才能同士によって組まれたタッグというのが面白いですね
お話自体はコテコテのアンチユートピアSFであり、それほど目新しさを感じるものではありませんが、ヒロインである詩希の精神喪失事件の前後が比較的に描かれていて、そのギャップが主人公の心情を痛感させてくれるキャラ作りが上手かったです
なにより詩希役の声優に選抜されたのが喜多村英梨ということもあって「ぼくっ子」の演技っぷりには【ドキっとするトキメキ】と【かつての妹である(であった)という虚しさ】のダブルパンチに心がエグられる気持ちです
これといったオチもなく今後の展開も十分ありうるような内容でしたが、少しおセンチに浸ってしまう・・・そんな作品だと思います