てけ さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
登場人物と視聴者の視点を重ね合わせ、精神の混乱を体験させる作品
今敏監督作品。全82分。R-15指定。
主人公のミマは、アイドルグループ「チャム」を卒業し、女優へと転向する。
女優となったミマは「ダブル・バインド」という映画に出演し、新しい人生をスタートするものの、身辺で不可解な事件が発生。
その後も映画の撮影が続行されることになるが、映画関係者が次々と……。
テーマとなっているのは「本当の自分」。
どこまでが本物の自分で、どこまでが偽物の自分なのか。
記憶の欠落、幻視、幻聴。
主人公のミマから見た、現実とも虚構とも付かない世界。
その演出が、視聴者を混乱の渦に叩き落とします。
キーワードになるのは「ダブル・バインド」という言葉。
例をあげてみます。
「あにこれで1万文字のレビューを書いたら、1000万円あげる」と言われたら、誰でも書くでしょう。
「あにこれで1万文字のレビューを書いたら、家に放火する」と言われたら、誰も書かないでしょう。
では、「あにこれで1万文字のレビューを書いたら、1000万円あげるけど、家に放火する」と言われたらどうしますか?
この例のようにダブル・バインドとは「どうしたらいいか分からない相反する2重の拘束」を表します。
この状況化におかれた(あにこれにレビューを書くことに決めた)人間は、強い緊張感や不安感を覚え、精神疾患と関連していると、一部で提唱されています。
この緊張状態に陥らない方法はただひとつ「何もしない」ことです。
物語のテーマに深く関わっている言葉です。
{netabare}
物語としては「女優になれば、活躍の場が広がるが、汚れてしまう」というダブル・バインドに置かれています。
ミマの場合、撮影中の映画における離人感、そして、アイドル時代の自分への愛着が、記憶の欠乏や幻視などを招いています。
視聴者はこの視点で物語を見ることになります。
ミーマニアの男の場合、「アイドルのミマ」に徹底的に執着しています。しかし、ミマは女優という道を選んでしまいました。
その不安状態から、自分に対して接してきたルミをミマと勘違いしています。
ミーマニアは殺人を犯しかねませんが、それはミスリード。
よく考えると、私生活をのぞき込むだけならまだしも、ミマの気持ちを的確に言い当てることは「同じ経験をしたことがある人物」にしかできません。
本当に大事な伏線は、ルミの元アイドルという肩書きと、ルミが泣いた理由にあるんですね。
ルミはミマと昔の自分を重ね合わせています。
ミマが女優の道を選んだことで、ミマの活躍と、ミマが汚れていく姿の間で葛藤が生じています。
そして、ミマのホームページでミマの言葉を代弁するうちに、自我に境界線を作り、自分こそがミマであるという、2つめの人格を生み出してしまいます。
殺人の動機は「ダブル・バインドの状態におかれた自分を緊張状態から逃がす」ためだと思われます。
人を殺す際、相手の目をつぶすのは、自分の姿を視認することで「現在のルミ」に戻ってしまうからでしょう。
ミマであり続けるためには、あくまでミマとして殺人を犯さなければいけません。
ミマ、ミーマニアの男、ルミ。
3人とも「パーソナリティ障害」を抱えているのが特徴です。
{/netabare}
残虐シーン、裸体、ストーカー行為、レイプシーンなどがあり、さらに、精神疾患という軽々しくは触れられないテーマをを扱っているので、R-15指定の通り、大人向けの作品。
客観的に事件だけを追えば、単なる「推理モノ」です。
しかし、ミマの視点と視聴者の視点を重ね合わることで、人間の精神に主軸を置いた、とても奥深いサイコホラーに仕上がっています。