みかみ(みみかき) さんの感想・評価
3.2
物語 : 4.0
作画 : 2.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
B級好き入門
むかし大好きでした。
■ギップルはなぜ「くさい」とか言うのか
他の方のレビューを読んでいてそういえば、ギップルが「くっっさーーーい!」とか言いまくってたな、と今さら思い出しました。
あれねぇ、今思うと、作者の衛藤さんの幼さというか、照れ隠しそのものなんだよね。
物語の展開の都合上、一定の「くさい」ことを言わなきゃいけないのだけれども、それをどこかで「くっさー」とツッコミ入れながらでなければ、提示できない。
A.一方で、それっぽいことの大事さを考えつつ
B.しかし、それが別の感覚では否定されるだろう
という、複数のことを並列的に考えるという発想はもちろん大事。もちろん大事であり、それこそ「リアリティの多様性」を考えるという並列思考の萌芽ともいえるもの…なのだけれども、「くさい」という表現によって、それっぽいことを「くさす」ということによって、「それっぽいこと」価値観と、「くさい」と言ってしまう価値観の間をあまりなだらかに接続できてないっつーことなんだよね。そこには、大きな隔たりがあって、接続できない、という感性が、衛藤さんのなかにある、ということの告白でもある。
(1)うさんくさい時代反映論的なはなしをすると…
ただ、もちろん、それは衛藤さん個人のものではなくて、90年台前半、という日本の社会状況とも関わっている。
言ってみれば、「くさい」っていうのは、80年代的な日常のリアリティの中で形成されたものだと思うのですよ。
60年台とか、70年台って、青臭いことをガチで言うのって、そこまで日常のリアリティと乖離してなかったはずなんですよ。それこそ、安保運動とかやってた時期だし、まだまだ「戦後」のリアリティが残っていた。で、青臭い政治談義とかが、リアルな社会状況とそのまま接続しうるという感覚がおそらくあった。
ただ、やっぱバブル期になると日常空間と政治空間、あるいは日常空間と「ガチな話をすること」っていうのが、はっきりと分かれる感覚というのが優勢になってきたと思うのだよね。
で、「くさい」とかって言う言葉を連呼せざるを得ないのは、そこの感覚の乖離がやっぱ強力になったのが、まあバブル期なんだろうな…と、今になってみれば思う。まー、当時はそんなこと思わなかったけれども。
(2)まあ、それとは別に、少年期的な
あと、まあ、それとは別に、単に10代において、恋愛経験も、社会経験も少ないという状況下では、恋愛とか、そういうことに関わるセリフというのは、単にキャイキャイしてる少年少女のリアリティとは隔絶しているっつー問題がある。
まー、うさんくさい反映論的なことをいわずに、いうと、まあ、そっちのほうがでかかろう
(3)あと、衛藤さんのおさなさ
ぶっちゃけ、あとがきとか読むと思うけど、これ書いてるときの衛藤さんってだいぶいろいろと幼い感じがするよね
しかし、衛藤さんは、その幼さによってかどうかわらないけれども、かなり独自の世界構築はできていて、そのオリジナリティは、やはり今振り返っても、すばらしいものだったと思う。
やはり、クリエイターにとって一定の幼さとか、粗忽さとか、そういったものって武器よねぇ、と思ったりする。
■衛藤さん最近なにやってんだろ
あと、作画評価「2」をつけておきながらなんですが、
ぐるぐる原作は、本格的に絵が下手なことで有名な衛藤ヒロユキによる作品で、実に絵が下手です。本当に絵が下手です。わたしがいままで読んだプロの漫画家のなかではダントツに下手です。
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しかしながら、その下手すぎる絵によってしか醸すことのできない、圧倒的に、だめすぎる驚異的にシュールな世界観は、とても商業誌のそれとはおもえない、なにか異様なにおいを放っていたわけです。
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グルグルは、わたしの人生のなかではじめての「B級愛」を感じさせてくれたきっかけともなりました。
衛藤さん、まだ元気でいるのだろうか…