みかみ(みみかき) さんの感想・評価
3.3
物語 : 3.5
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:途中で断念した
ワンピースの可能性はウソップにかかっている
よしわるしだけれども、まあ良いのではないでしょうか、というのがわたしの「ワンピース」に対するごく短い評価です。
*
というのも、「ワンピース好きな奴は、バカなパンピー」という評価もよくわかる一方で、「え、でもワンピースはエンターテインメントとして、やっぱ結構よくできてるよ?」という評価もあり、特にここ最近はエンタテイメントとしての出来が向上しているように思うからです。(また、ここまで国民的になってしまうと、もうなんか評価のステージが変わる…というところもあります。)
*
なお、アニメ版は正直なところトビトビで、たまに見ている程度ですが、原作漫画は一応すべて読んでおります。
で、どうしても、原作漫画よりのレビューになりますのはご容赦を。
■第一話の卓越
第一話においては、銃をひいて「殺す」ことにも躊躇いのない海賊たちが描かれ、ぬるま湯的な善人描写とは、まったくぜんぜん違う世界が展開されています。
この作品の第一話、は現代の少年漫画の水準全体を見渡しても、作話の省略技術、盛り上げ方、啖呵の中身のかっこよさといい、素直にすばらしいものだと感じます。たぶん、編集者の人とよっぽど煮詰めて話をつくったのでしょう。第一話の出来の良さだけが異次元です。一話だけは何度よんでもいい話であり、かつ教科書的によくできています。
この第一話、の水準を目標としてワンピースがこの後もずっと描かれているのであれば、目指しているところ自体は、非常によくわかるし、すばらしいものには違いありません。
■子供=バトル漫画として
ただし、その後の展開については、みなさんご存知のとおり、ある種ワンパターンな泣かせエピソード&スーパーサイヤ人的な怒りの表現が繰り返されつつ、話がすすんでいきます。第一話において成立していた水準は、まったく期待できないものになっている、というのが、悲しいところです。
正直なところ、この展開の何がいいのか、というのは、ある程度、年齢のいってしまった人間にとっては感覚的にはよくわかりません。
ただし、子供のハートはわしづかみにはしているようだ、ということは重要なことで、とりわけバトル展開は子供にとっては「かたい」ラインでしょう。これは年のいった人間が良し悪しを論じるのはナンセンスで、子供が、うひうひ言いながらみられるもの、をきっちり作るというのはそれ自体が偉大です。
子供向けアニメ、としてはドラゴンボールの正当な子供だといっていいものなのでしょう。たぶん。
また、子供向けという部分に限らずエンターテインメントとしては、白ひげvs海軍の、大戦争の描写あたりは、非常にすばらしい出来で、この作家は、読者をうまくワクワクさせるための、風景の展開のさせ方、話の運び方のようなところは本当に熟達してきているように思えます。
■泣き展開=サプリメント的受容、のひっかかり
で、ワンピースが嫌いな人、というのも世の中には大量にいるわけで、それはそれでとてもよくわかることです。
「みつを」的なもの。あるいは「ゆず」「19」「326」的なマーケットをとりこんだムーヴメントとしてこれが発展したということが最大のひっかかりになっているのでしょう。まあ、「そんな見えみえの、泣かせ話にやられてるとか、おまえらマジで馬鹿なの?」という反応でしょう。
あまりにも典型的な「いい話」をなぞっているだけではないか、と。確かにそのとおり。
ワンピースが嫌われる問題は、けっきょくルフィはあんまり悩まない、ということに尽きると思います。
海軍と海賊が互いの相対的な「正義」をかけて戦うという、正義の多様性のようなものを描いているわりには、最終的にはルフィが正義で、ルフィが殿様。そして、悲しい話はただのテンプレで、馬鹿なんじゃねーの?
と。
これは当然あってしかるべき批判です。
■
ただ、上記の、ワンピースが「嫌われる点」については、話がすすむごとに徐々にまともになってきている点、は特記しておくべきでしょう。
たとえば、ウソップとルフィが対立するくだりなどは、その兆しと言えると思います。ただ、結局、なんだかんだでルフィは正しく、ウソップの正当性はどこまでいっても、ルフィという天然の父親のもとで、わがままを言う子供。で、「それも一理ある」という範囲内のもとでしか成立しえない、というあたりが、ワンピース、という話の限界なのだとおもいますが、まあ、徐々によくなってきている、というのは確かだと思います。
また、ウソップというキャラクターは、この手の超マスマーケット向け作品のなかでステレオタイプのキャラクターばかりが登場するなかでは、もっともステレオタイプではないキャラクターになっていて、「迷う」ことを担当させられるという重要な役回りです。
「泣きテンプレで、ステレオタイプのキャラばかりが登場するどうしようもないアニメ」という評価を、もしワンピースが超え出ることができるのであれば、そのポイントは、ほとんどウソップにかかっているのではないでしょうか。
ルフィは、もう、この後どうにもならないし、どうしようもないので、今後、ウソップがどれだけ「ルフィの手の平」を越える存在として成立するかどうか。それだけがこの作品のある種の評価にかかっているのだと思っています。
ウソップの迷いが、弱さゆえであり、そして、弱さ自体は、認められるべきもの、として言い訳的に表現されているのであり、それが最終的にはルフィの決断の懐の深さの引き立て役としてしか機能し続けない……のであれば、この作品の評価は、ある種の人々にとって浮上することはないでしょう。ウソップが、しょせんただの「免罪符」でしかないのであれば、まったくだめです。
しかし、せっかく、エンターテインメントとして、60巻を越えて、なお作者の成長が見られるこのシリーズには、なるべくポジティヴな可能性をみてとりたい、と個人的には思っています。