みかみ(みみかき) さんの感想・評価
3.5
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:今観てる
ガンダムシリーズではじめて良いと思えた。
■社会的摩擦の表現が、ようやくキタ。
30話ぐらいまで見た時点での感想になるが、
「ガンダム」シリーズなるものに対して私はおおむね絶望しつつあった。ある種のオタ教養としてガンダムが必修科目であるという前提がなければ、決して富野さんのようなタイプの人のつくる話をわたしは見ないだろうという思いをどんどんと強くしていた。「富野さんは愛されすぎ、かつ神格化されすぎていて、みんな肯定的な評価をしすぎだと思うのだが…、わたしがガンダムみている限りだと、富野さんの話にはシナリオ技術と視聴者への裏切りを入れる方法論こそあれ、政治的・社会的・人間的に豊かな想像力があるとはとても思えないのだが……」というとても、ネガティヴな感想をもっていた。
だが、
∀を見たことで、ようやく。
本当に、ようやく。
ガンダムシリーズが、わたしにとっても、まっとうに評価可能なものである、ということを思い至るに至った。
わたしにとって、何がよかったのか。
要は簡単で、ガンダムにおいて「社会的摩擦」の問題をはじめてまともに描いている作品になっている、と思えたからに他ならない。
社会的摩擦の問題が、本作は中心的な主題になっている、といってもよいほどに、さまざまな軋轢・摩擦が細かく描かれている。これはほかのガンダムとは大きな違い。悲劇的で壮大な話のわりにリアリティのない社会空間しか存在しない話だなー、とおもうことの多かったガンダムシリーズだが、本作は、とにかく、そこのところががっちりとクリアーされていて、もうそれだけで、良かった。本当に。ここを丁寧にかいていて、かつ子供向けのアニメだ、というのはとてもすばらしい仕事だと思う。
■しかしながら、相変わらずの力強すぎるぐらいに強い人々
一方で、登場人物の「力強さ」はやはりサイボーグ的なところがあり、パン屋の彼とか、いきなりエラく力強いビジネスマンになれちゃったりしているあたりは、ご愛嬌といえばご愛嬌なのだろうが、力強い話だなあという気がする。
挫折の仕方を愛する、というような、挫折をめぐる美学みたいなものって、結局無いんだろうなあ、と。狂気の表現や、屈折の表現があったとしても、それは基本的には、20世紀初頭の文学作品の真似事で、カフカとか、カミュとかそういったものを意識して、部分的に借りてきてやってしまっているという感じしかしないのが、わたしにとってのガンダムだ。
庵野さんのような、挫折の中にある人間のリアリティを救い出そうとするような、細やかさは、たぶん、トミノさんの中には、求められないのかもしれない。トミノさんにしては、だいぶ視点を一段おとしたところから描こうとしているこの話においてさえも、細やかな人間の心情表現のようなところがザルな話しか出てこないのをみると、なにか、すっぱりとしたあきらめのようなものもつく。
トミノさんは、インタビューとか読んだり、話きいたりすると、なんだか、いつもやたら力づよいしなぁ。そもそもの、本人の世界解釈の枠組みが、力強さをベースにして組み立てられまくっているのではなかろうか、という気がいつもする。それはそれで、完結したひとつの世界観なので美しくはあるのだろう。