みかみ(みみかき) さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
「よくがんばりましたね、あなたは素敵です。」
■じゅうぶん成長しない、成長のはなし
最後の最後の部分でずっこける、というのはもはや定番といってもいいほど多くの人がネタにする部分で、恋愛描写としてはどうなのだろうか、と、いささか微妙な気持ちになるところもありつつ……
ただし、この作品は恋愛の物語である一方で、少年少女の成長の物語でもあります。
成長の物語として、すばらしいのは、主人公たちが新しいチャレンジにつきすすんでいくということを描きながらも、決して彼らを安易に成長させるような、神話的なはなしに仕立て上げて<いない>ということです。
物語のフォーマットとしては、スポ根フォーマットよろしく努力するにつれて高速に成長していく物語(巨人の星)というのひとつの定番ネタとしてあり、それはそれでかたい手法なのだけれども、それとはまったく逆のことをやってみせる。
主人公たちは、たいして成長しない。
だけれども、たいして成長しない主人公たちにも、何かに立ち向かったことで何かしらの新しい風景が見えてくるような、そういう体験をきちんと用意してやっている。それがすばらしいと思うのです。
■おもうままに成長できない人々への、まなざしのやわらかさ
その「新たな風景」として立ち上がることのひとつは、何よりも少しのだけの成長をした主人公に対して向けられるまなざしです。そのまなざしこそに、わたしは見るたび、なんともいえぬ感慨を覚えます。
具体的には、主人公の雫がまだ下手な小説を書き上げてそれを、読んでもらった直後の、おじいさんのコメントにあらわれています。
「雫さん、読みましたよ。
ありがとう、とてもよかった。」
「うそっ!うそっ!本当のことを言ってください!
書きたいことがまとまってません!
後半なんかめちゃくちゃ!
自分でわかってるんです!!」
「そう、荒々しくて率直で未完成で・・・、
聖司のバイオリンのようだ。
雫さんのきり出したばかりの原石をしっかり見せてもらいました。
よくがんばりましたね、あなたは素敵です。
あわてることはない。時間をかけてしっかり磨いてください。」
わたしは、人にものを見せられたときに、いい部分とわるい部分をかなりはっきりと言ってしまうタチなので、なおさら、こういうコメントができることのすばらしさ、というのを年々、感じるようになりました。
わたしのもとに来る、わたしよりも若い人に何かを言うことはとても難しいですが、可能であれば、うわっつらの発言としてではなく、こういうことを言える人間でありたいと、いつも思います。
多くの人は、こういうやさしさを発露させようとして、言葉がうわっつらの褒め言葉でしかなくなってしまって……。
それがとても、現実はむずかしいのですが…。
しかし、制作者のやさしさがにじみ出る本当にすばらしい言葉を、きっちりとした文脈にのせて提示してみせてくれたと思います。
また、もうひとつのささやかな新しい風景は、いつもとは違う小さな非日常の場所へと入り込んでいく、ということ。そしてそこで、不恰好な恋愛を成就させることです。
いずれも、まだまだ不恰好なものにあたえられる、不恰好だけれども自分でつかみとったということだけが、何よりも貴重なそういう、あらたな風景です。
こういう不恰好な風景を、丁寧に、美しくかくというのは、とてもむずかしいことです。
*
なお、リリース当時、わたしは、雫ちゃんと同じ年で、
やはり一人でものを書いているような人間だったので、非常に強い親近感をもって観たのをおぼえています。