みかみ(みみかき) さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
2011年の最大の台風の目が、これで良かったな、と思う。
■伝統的な問題系を、あたらしく表現
「ここ10年最高の傑作ですよ!あんたは絶対に観るべき」と言われて、見てみた。
確かによかった。
うん。
ただ、すごい!革新的!というよりは、どちらかというと、伝統的な問題をもってきたな、という印象のほうがまずは強かったです。(あと、この10年で最高…は個人的には他の作品を推すけど…)
魔法少女もの&ループに、絡めた、というのは確かにあたらしい、ものとうまく混ぜていてすごいとも思いました。アニメ作品でこういう表現はたしかに貴重だとは思ったのも確かです。
■むしろ、思い知ったのは、いままで何が足りなかったのか。
虚淵さんの作品は、ほかに『沙耶の唄』もやったけれど、基本的にはこの人は『寄生獣』(岩明均)的な異星人との身体性の差異がもたらす、倫理/利益等の成立の違いのはなしが多いんだな、と。そういう印象。
問題系としてだけ言えば、虚淵さんの『沙耶の唄』でも近い話は展開されているし、岩明均『寄生獣』はこの手のはなしの傑作だし『攻殻 Ghost in the shell』だって、捉え用によってはもっと強烈な形でこの問題を扱っている…とは言える。
でも、『沙耶の唄』『寄生獣』『攻殻 Ghost in the shell』といった作品はオタクマーケットよりも、さらにマイナーなサブカルマーケットの中でウケていただけで、オタクマーケットで、こんなふうに、どっかーん、と花開かなかったんだよね。
これを、きっちりと作り込んで、これでもかってぐらい分かりやすいお話として提示して、きっちりコントラストとか意外性とか付けて、どっかーんと、花開かせた、という点ですごいな、というのが、わたしにとっての『まどか☆マギカ』です。
やっぱりね、何の意外性もない真実として、1.わかりやすく提示してみせる 2.ある程度、同時代的に訴求力の強そうな方法論(ループとか)を使う、ってことは本当に重要だな、としみじみ思った。
わかりやすい、っていうのは、話としてうまく構成されている、あざやかでもあるってことでもあるので、それはやっぱり、物語の強度にもなっている。各登場人物の心情描写とかがグッとくるようなところとか、ほんとうまく出来てる。
毎度のことながら上から目線で恐縮ですが、虚淵さん自身がやはりすごく、熟達されてきてるのだろう、というように思います。
■「萌え」という入れ物
さる人が、あえて逆説的に「オタク狙い撃ちアニメでしょ。<萌え系一直線のどうしようもないアニメ>というのとは逆の意味で。」と言っていたが、ああ、そうね、と思った。
萌え系一直線でないが、萌え系でもありつつ、そこをベースに、何かを突破した表現をしている、という、この構図は『とらドラ』ともすごく近い。
ゲーム、アニメ、漫画がさまざまな表現を包含する「メディア」という入れ物であるように、「萌え」自体が、まずそれをベースにして、さまざまな表現に接続されていくメディア的な役割をはたしているのだろうな、としみじみ。
その意味では『とらドラ』と並べて、何か象徴的なアニメだな、と。
あと、最後を、ラッセルのパラドクス※1でオトしたのは、「えっ、そんなオチかい」的な感じもいささかありましたが、まあ、そこはご愛嬌。
■しかし、なんだかんだでホント、良かった。
これが2011年のオタク界隈で最大の話題になる、というのはとても、とても、いいことだと思っています。
『まどか☆マギカ』『とらドラ!』『ひぐらしのなく頃に』…と、なんだかんだで、毎年のオタク界隈の最大の台風の目、みたいな作品には、きちんといいものが選ばれている、という印象があって、オタク界隈のビッグ・トレンドというか、お祭り会場の一番の中心みたいなものにこういうのが選ばれてほんとよかった。
その年のトレンドの二番目、三番目…あたりにくると、厨二パワー全開系が入ってきたりして辛いんだけど、やっぱ全年齢・全性別の層をグッと巻き込むパワーのあるものが、きちんとしてるっていうのは、本当にいいことだな、としみじみ思います。
※1ラッセルのパラドックス:「自分自身をその要素として含む集合」というものを考えた場合に、その集合の定義は混乱をきたしちゃいますよね、という話。詳しくはぐぐって…。
わかりやすめに書いてあるところとしては「数学って面白い!?」のページのラッセルのパラドクスの説明が、日常用語解説。